その夕方…-。
嵐が去り、空には美しい夕焼けが広がっている。
(すごく綺麗……)
まだ露を含む庭で、ベンチに腰かけ空を見上げていた。
〇〇「あ、ゼロさん」
ゼロさんがどこからともなくやってきて、私の隣に腰掛ける。
ゼロ「……」
〇〇「あの……?」
彼は、しばらく口をひらくこともなく、何か考えているようだった。
ゼロ「……よし」
大きく息を吸って、ゼロさんが眼鏡を押し上げる。
ゼロ「風で雲が飛ばされるため、嵐の後にはこのように色彩鮮やかな空をみることができる確率が高い」
〇〇「……はい?」
突然の言葉に、私は驚いて瞬きを繰り返す。
ゼロ「だから、いま空の色がこんな風に鮮やかに染まっているのは、嵐が…-」
(もしかして、会話をしようとしているのかな……?)
必死に説明する彼を見ていると、クスリと笑みがこぼれた。
〇〇「……すごく綺麗な空ですね」
ゼロさんは、説明をやめ、顔を背けてしまう。
〇〇「そう思いませんか?」
黙り込んでしまった彼の手に、そっと触れた。
ゼロ「あ、ああ……そうだな」
〇〇「空のこと、詳しいんですか?」
ゼロ「空は、確率で計れないのが腹立たしくて面白い。 どうにか完璧な法則を見つけてやりたくなる」
〇〇「ゼロさんも、面白いです」
ゼロ「俺が……面白い?」
横で背筋を伸ばして空を見上げていたゼロさんが、驚いたようにこちらを振り返った。
ゼロ「……君も、数学で計れないな」
〇〇「え?」
ゼロ「女性が喜ぶことを念入りにリサーチしたつもりだが。 なぜだか、怒られた」
〇〇「そんな、私、怒ってなんて……」
ゼロ「こうやると、どんな女性も統計通り喜んだものだが」
私を見つめる彼の眼差しの優しさに、胸がトクンと跳ねた。
ゼロ「面白いよ、君」
穏やかに見つめ合った、その時…-。
(何……?)
音もなく現れた3人組が、私達を取り囲む。
驚いてゼロさんを見つめると、彼は大きくため息を吐いてベンチから立ち上がった。
ゼロ「相手は3人。君を守って逃げ切ることができる確率は、2パーセントくらいかな。 逃げろ。こいつら、俺を殺す機会を狙ってた連中だから」
〇〇「えっ!?」
突然のことに、頭がついていかない。
ゼロ「早く!」
ゼロさんが私の背中を押す。
〇〇「ゼロさん……っ!」
(そんな……!)
茜色の夕陽が、世界を染めている。
彼に向けられた刃が、夕陽を反射して赤く光った…-。