第3話 「今日は……風がすごいな」

翌朝…-。

窓を叩く激しい雨と風の音で目を覚ました。

(すごい嵐……これじゃ、外には出られないな)

空は分厚い雲に覆われていて、朝だというのに外は夜のように暗い。

猛り狂う窓の外の景色を眺めながら、私は窓辺で頬杖をついた。

そんな時……

??「いいか?」

扉を叩く音に続いて、ゼロさんの声が聞こえる。

〇〇「はい」

立ち上がって扉を開けると、ゼロさんの後ろから、ぞろぞろと人が入ってきた。

〇〇「……?」

ゼロ「紹介する。右から、ネイリスト、エステティシャン、ヘアメイク、ヴァイオリニスト」

〇〇「えっ?」

ずらりと横に並んだ女性達が、いっせいに頭を下げる。

(なんだろう……?)

何が何だかわからずにゼロさんを見つめると、彼は眼鏡に手を当て、咳払いをした。

ゼロ「嵐で観光にも連れていけないからな。 せめて、優雅に過ごしてもらおうかと」

(優雅に……?)

ゼロ「皆、準備を」

ゼロさんが手を叩くと、女性達はいっせいに準備をはじめた。

ベッドの横にはアロマキャンドルが焚かれ、ネイルケアのセットが整えられる。

おまけに、窓辺ではヴァイオリンの演奏まで始められた。

(これは、一体……)

あっけにとられていると……

ゼロ「さあ」

(え……)

ゼロさんが、ふわりと私を横抱きに抱き上げた。

〇〇「あ、あの……」

彼は、ベッドの上に私を降ろし、悠然と私を見下ろす。

〇〇「こ、こういうのはもうしないって、昨日……」

ゼロ「こういうの?」

考えごとをするように彼が目を細める。

美しい黒髪が、サラリと流れた。

ゼロ「……物質は贈っていないが?」

(物質……?)

(も、もしかして……)

―――――

ゼロ『君は過剰に物質を与えられることを嫌悪するのだな』

―――――

(物がダメだから、物じゃない贈り物をっていうこと?)

何と言葉を続けてよいかわからずに、私はあっけにとられてしまう。

ゼロ「こういうことは、嫌いか?」

〇〇「違います……。 そういうことじゃなくって……」

どうにか言葉を絞り出した私を見下ろし、ゼロさんは、不思議そうに首を傾げた。

(何て言ったら、いいんだろう……)

ゼロ「〇〇?」

彼の指が、気遣うようにそっと私の髪に伸びて……

〇〇「……っ!」

私は、その手を押しとどめた。

〇〇「違うんです! 私、こんな贈り物必要ない……っ」

ゼロ「必要ない? 統計では、女性は贈り物や美容を喜ぶと出ていたが……。 そうか、じゃあ、君はアウトドア派か? 一緒に旅行に行ったりすることを喜ぶ女性なのか?」

〇〇「統計……?」

ゼロ「でなければ……」

(頭がクラクラする……)

〇〇「違うんです、そうじゃなくて……! 私はただ、ゼロさんと、お話したりしたいだけなんです」

思いきってそう口にすると、ゼロさんが心底不思議そうな顔をする。

ゼロ「話? 変わった人だな、君は。 そうか、女性の話は黙って聞くのが良いと統計結果にあったな。 よし、君の話を聞こう」

〇〇「じゃなくて……」

大きく息を吸って、私は彼の瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。

〇〇「会話がしたいんです」

ゼロ「俺と……会話? 会話をしてどうする?」

〇〇「どうするって……ゼロさんのことが、知りたいんです」

ゼロ「俺のこと? 知ってどうする?」

〇〇「どうするって……仲良くなりたいに決まってるじゃないですか!」

予想外に大きな声が出てしまい、私は口元を両手で覆う。

ゼロ「え……」

驚いたように目を見開いて、ゼロさんはベッドから離れ、黙り込んでしまった。

〇〇「あ、あの……」

あわてて起き上がり、彼の顔を覗き込む。

ゼロ「会話……」

しばらく考えこんでから、彼は決心したように咳払いをする。

ゼロ「きょ、今日は……風がすごいな?」

〇〇「……」

彼の唇が紡いだその形式的な言葉に、思わず吹き出してしまった。

ゼロ「な、なぜ笑う!?」

温かい気持ちが広がって、クスクスと笑いが止まらない。

〇〇「はい、ほんとうにすごい嵐ですね」

ゼロさんが照れくさそうに笑い、エステの準備をしていた女性たちも、楽しそうな声をあげた。

外では嵐が吹き荒れているのに、部屋の中は、まるで、暖かな春の日のようだった…-。

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