城に到着すると、ゼロさんは自ら私を客室に案内してくれた。
〇〇「素敵なお部屋……ありがとうございます」
窓から入り込む風がとても涼しく、汗がすっと引いていく。
ゼロ「そう。よかった。 あと、今日の晩餐会に着てもらおうと思って、ドレスを用意した」
〇〇「えっ」
ゼロ「気に入るはずだが……どうだ」
そう言って彼は部屋の隅に足をむけ、クローゼットの扉を開けた。
〇〇「わあ……」
大きなクローゼットいっぱいに、色とりどりのドレスがしまわれている。
綺麗なお花畑のようなその光景に、私は言葉を失った。
ゼロ「全部君のものだ。好きなのを着るといい。 アクセサリーは、ここ。 靴は、ここに」
彼が引き出しを引くと、次々と美しいものが出てくる。
(こ、こんなにたくさん……)
〇〇「ゼロさん、あの……こんなにいただけません」
何とかそう言うと、彼は不思議そうに首を傾げる。
ゼロ「どうして? 恩人に礼をしたい」
(でも……)
なんだか申し訳なくて、私はクローゼットから目をそらし、顔を伏せる。
そんな私の顔を、ゼロさんがまじまじと覗き込んだ。
ゼロ「何だ、もしかして足りないのか?」
彼は、真っ直ぐに私の瞳を見つめている。
ゼロ「それとも、気に入らないか?」
〇〇「……っ」
胸が大きく音を立てて、私は何度も瞬きを繰り返した。
〇〇「い、いえ……そんなことは」
(でも、やっぱり……)
お断りしようとすると……
ゼロ「よかった。じゃあ、ゆっくり選ぶといい」
満足そうに微笑んで、彼は私に背を向けてしまう。
〇〇「あのっ、ゼロさ…-」
引き止めようと、慌てて彼を追おうとすると……
〇〇「……っ!」
足をもつれさせ、倒れ込みそうになってしまう。
ゼロ「危ないっ……」
とっさにゼロさんが振り向き、私の腕を掴んで支えてくれる。
〇〇「す、すみません……っ」
顔を上げると、ゼロさんと至近距離で目が合って、飛ぶようにその腕から逃れたけれど、全身が火のように熱くなっていた。
ゼロ「……」
眼鏡の向こうで、ゼロさんが推し量るように目を細めた。
〇〇「あ、あの……。 こんな風に扱われると、なんだか……」
ゼロ「こんな風?」
〇〇「贈り物……とか。私、普通の暮らしをしていたから、お姫様扱いには慣れてなくって……」
私が震える声でそう言うと、ゼロさんは考え込むように顎に手を当てた。
ゼロ「……理解した。 君は過剰に物質を与えられることを嫌悪するのだな」
(過剰に物質を……って)
ゼロ「すまない。もうしない。 晩餐会も、形式ばらないものに改めるからドレスは着なくていい。 と、なると……」
顎に手を当ててぶつぶつとつぶやきながら、ゼロさんは部屋を出ていってしまう。
(ゼロさんって、一体……)
さわやかな風を感じることもできないほどに、私は戸惑うことしかできなかった…-。