第5話 悪化する状況

静かな露天温泉に、湯の流れる音だけが響いている。

徐々に日が傾き、目に入る風景も茜色に染まってきた。

フロスト「こうして景色を見ながら湯を楽しむ、か……なかなかに味わい深い」

フロストさんが目を細めて、ゆったりとした笑みを浮かべる。

〇〇「そうですね。スノウフィリアにはないと、さっき言ってましたけど。 雪を眺めながら入る温泉も、きっと素敵ですね」

フロスト「ほう……雪見風呂か。風情があるな」

その光景を思い描いているのか、彼は静かに目を閉じた。

〇〇「はい。温泉の温かい湯気と、空から降る雪の白さと……すごく綺麗だと思います」

私もその美しさに思いを馳せて、うっとりと目を細めると…-。

フロスト「よし、お前に……俺が雪見風呂を見せてやろう」

フロストさんが端正な顔を引きしめ、真っ直ぐに前を向いた。

〇〇「本当ですか? 嬉しいです!」

喜ぶ私を横目で見やり、彼はすっと立ち上がろうとした。

けれど…-。

フロスト「……っ」

短く息を呑み、手で頭を押さえたまま動かなくなってしまう。

〇〇「フロストさん……!?」

よく見ると、先ほどまで赤みがさしていた頬が今は青白い。

(やっぱり、体調が良くないんだ……!)

〇〇「フロストさん、大丈夫ですか!? 具合が…-」

フロスト「……大丈夫だ」

彼はなんでもないように装うけれど、その奥の辛さまでは隠しきれていない。

〇〇「フロストさん、もう…-」

戻りましょうと声をかけようとすると、私を制するように彼が口を開く。

フロスト「お前は、雪が見たいのだろう? さっき、期待に満ちた顔をしていた」

〇〇「……っ」

私のことを思ってくれることは、すごく嬉しいけれど……

(だけど、今は早く休んでほしい)

私は、彼を説得するために……

〇〇「また今度にしませんか?」

フロストさんの腕にそっと触れながら、顔を覗き込む。

フロスト「〇〇……?」

〇〇「それに……そろそろ宿でお食事も用意してくださる頃だと思うので」

そう言うと、フロストさんはようやく納得したように頷いてくれた。

フロスト「それならば……仕方ないな。戻るとするか」

足湯の効果が続くように祈りながら、私とフロストさんは再び少し冷たい風の中に身を投じた…-。

……

街は夜を前に、少し人だかりも減っていた。

太陽も姿を隠そうとしていて、さっきよりも空気が冷えてきている。

フロスト「……」

フロストさんは眉をひそめ、苦しそうに短く息をしていた。

先ほどから口数も減り、足取りもどこか重い。

(どうしよう……どんどん具合が悪くなってる気がする)

(やっぱり、早く戻るべきだったんだ……)

後悔と不安に押しつぶされそうになりながら、ただ宿を目指してひたすら歩みを進めた…-。

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