第3話 温まるもの

賑やかな温泉郷を、フロストさんと並んで歩く。

道には出店が並んでいて、情緒的な雰囲気を醸し出していた。

フロスト「不思議な美しさだ」

フロストさんが建物に目を向け、感心したようにつぶやく。

〇〇「不思議、ですか?」

フロスト「ああ、寄せ合うように建物を密集させて、一見狭苦しく感じるが…-。 よく見ると折り重なるように建てられているのが、絵画の世界のようで美しい」

芸術に造詣が深いフロストさんらしい感想に、思わず笑みがこぼれる。

フロスト「お前も見てみろ、ここからの角度は特に素晴らしい」

その言葉に従って、私は建物に目を向けた。

〇〇「ちょっと懐かしい感じがします」

フロスト「懐かしい?」

〇〇「あっ、いえ、雰囲気がなんだかほっとする感じがして……」

フロスト「なるほど……お前はそう感じるのだな」

楽しそうな彼の様子に、私の心も浮き立ってくる。

すると…-。

〇〇「……っ」

不意に冷たい風が吹き、首がぎゅっと縮こまってしまった。

フロスト「……」

フロストさん手がおもむろに伸びてきて、私の肩を抱き寄せる。

(温かい……)

〇〇「あ、ありがとうございます…-」

フロスト「……少し冷えるな」

ふとフロストさんを見上げると、顔がどこか青いように感じた。

〇〇「フロストさんも、大丈夫ですか? 顔色が…-」

たまらず尋ねると、フロストさんは目を伏せて…-。

フロスト「心配はないと何回言わせるつもりだ?」

強い口調に、私は言葉を失ってしまう。

(気をつけようって思ってたのに、またしつこくしちゃった)

(せめて何か温まるものを……)

辺りに視線を巡らせると、少し先に甘酒の絵が描かれたのれんが下がっている出店が目に入った。

〇〇「フロストさん、甘酒を飲んでみませんか?」

フロスト「甘酒……か。前にこよみの国で見かけたな」

〇〇「そうだったんですね。もしかして味が違ったりするんでしょうか?」

フロスト「それは飲んでみないとわからないな」

私達は早速、出店に赴いた。

……

甘酒をいただき、二人でその香りを楽しむ。

フロスト「……優しい味わいだ」

フロストさんはふっと息を吐き、柔らかな笑みを浮かべた。

〇〇「よかったです。すごく栄養があるんですよ」

フロスト「酒を作った後の副産物だと聞いたが、悪くないな」

(よかった。少しでも体を温められれば……)

思わず安堵のため息を吐くと…-。

店主「お兄さん、よければこちらもいかがです? 廻天名物の酒でね、今日は冷えるから熱燗で」

店主さんがここぞとばかりに、湯気の立ったお猪口を差し出す。

フロスト「ほう、もらおうか」

フロストさんはそれを受け取ると、香りを楽しんだ後、舐めるように一口飲んだ。

フロスト「華やかな香りだ。味はさっぱりしていて美味いな。 お前もどうだ?」

お猪口を差し出され、私は…-。

〇〇「えっと、私は……」

フロスト「遠慮をするな。せっかくの機会だ、飲んでみろ」

機嫌の良さそうなフロストさんの様子が嬉しくて、私も一杯いただくことにした。

なみなみと注がれたお酒をこぼさないように、そっとお猪口を受け取る。

おずおずと口をつけると、花のような香りが鼻腔を満たした。

フロスト「どうだ?」

感想を求められ、慌てて口に含んだお酒を飲むと、喉が焼けるように熱くなった。

フロスト「大丈夫か?」

〇〇「す、すみません。味は、えっと……フロストさんはこっちの方がお好きですか?」

そう尋ねると、フロストさんはすっと白く長い指を私の頬に這わせる。

(冷たい……)

直に触れる指の冷たさが、熱を持った頬に心地よい。

フロスト「お前は甘酒の方がよかったか?」

優しく微笑むフロストさんを前に、頭の中で返す言葉を探していると……

フロスト「ふ……素直な奴だ」

廻天の落ち着いた雰囲気がそうさせるのか、フロストさんがもう何度目かの柔らかい笑顔を浮かべる。

その度に、胸が甘く疼いて仕方がなかった…-。

<<第2話||第4話>>