私とトルマリが、楽団の演奏に耳を傾けていると…-。
??「あの……」
〇〇「……? あ……!」
声がした方を見ると、そこには先ほどトルマリを見つめていた男の子が立っていた。
黄金色の髪の毛、赤らんだ頬……男の子は少し儚げで守ってあげたくなるような雰囲気を醸し出している。
トルマリ「きみ、顔赤いよ? どうしたの?」
??「えっと……あの……」
トルマリが近づくと、男の子の顔はさらに赤くなってしまう。
(あっ……もしかして……)
私がそう思った瞬間、男の子は胸に手を当てて大きく息を吸うと、トルマリをまっすぐに見据えた。
ラーク「あの……! 僕、ラークと申します! 僕と一緒にダンスをしてくれませんか?」
ラークくんは深々とお辞儀をすると、トルマリの前に右手を差し出した。
(やっぱり、トルマリのことが気になってたんだ)
若干の驚きを胸に抱きつつ、トルマリの方へと視線を向けると……
トルマリ「……えっ? ぼく?」
状況が理解できないのか、トルマリは助けを求めるように私の顔を見ている。
(えっと……)
〇〇「ラークくん、トルマリのことが気になってるんだと思うよ」
トルマリ「え? 気になってるって……。 ……あー、なるほど。そういうことかぁ」
耳元でそっと教えてあげると、トルマリは納得したように頷いた。
ラーク「その……ぼく、きみのこと、かわいいと思って……」
ラークくんは両手を握りしめながら一生懸命言葉を探している。
(ラークくん、真剣なんだ……)
(でも、トルマリが男の子だってことは……知らないよね……)
私が複雑な思いを抱きながら二人の間で視線を彷徨わせていると、かわいいと言われてまんざらでもないのか、トルマリはどこか悪戯っぽく微笑む。
トルマリ「ふーん。ま、仕方ないよね。ぼくかわいいから。 ぼくって本当、罪な男の子……」
ラーク「……男の子?」
首を傾げているラークくんを、トルマリはまじまじと見返す。
トルマリ「きみ、ちょっとアルマリに似て守ってあげたいタイプだけど……。 今日はごめんね! ぼくには〇〇がいるから駄目なんだ」
トルマリは私の腕に手を絡ませると、ぴったりと体を寄せてきた。
すると……
ラーク「あの……一曲だけでいいですから」
ラークくんは今にも泣きだしそうな顔になり、彼の真剣な思いに私の胸は強く締めつけられる。
(……このままじゃ、ちょっとかわいそうだよね)
〇〇「トルマリ、私なら大丈夫だよ。だからラークくんと踊ってあげて?」
トルマリ「えー、でも……その間に〇〇が他の男に声かけられたらやだよ」
(他の男って……)
思ってもいなかった言葉に、私は思わず吹き出してしまう。
〇〇「大丈夫だよ。声なんてかけられないって」
トルマリ「……それ、本気で言ってるの? 相変わらず、自分の魅力わかってないんだから……」
(えっ……)
不意に低くなったトルマリの声に、私は…-。
〇〇「み、魅力って……トルマリは褒めるのが上手いんだから」
トルマリ「ぼくは本当のことを言っただけだよ」
(……っ!)
トルマリの言葉に、私の胸が小さく跳ねる。
すると……
ラーク「あ、あの……」
私達の様子を伺っていたラークくんが、瞳を潤ませながらおずおずと声をかけてきた。
トルマリ「……。 はぁ……一曲だけだからね」
ラーク「え……? あ……。 ……っ! あ、ありがとうございます!」
トルマリが髪の毛を触りながらしぶしぶ了承すると、今にも泣きだしそうだったラークくんはとびきりの笑顔を浮かべる。
その直後、ダンスホールにゆったりとしたテンポの曲が流れ始め……
トルマリ「〇〇はここにいてね! 変な男に声かけられても、ニコニコしちゃ駄目だからね!」
トルマリはそう言い残してダンスホールの中央へと進み、ラークくんと手を取り合う。
(あ……ラークくん、照れちゃってトルマリの顔見れてない)
(ふふっ。こうして見ると、何だかお似合いかも)
ウェイターから受け取ったシャンパンを飲みながら、私は二人のかわいいダンスを見守る。
そうして楽しい夜は、少しずつ少しずつふけていったのだった…-。