待ちに待った、パーティ当日…-。
背の高い門扉をくぐると、楽団の演奏曲が聞こえてくる。
華やかな曲に導かれるように、トルマリと私はパーティホールへと吸い込まれて行った。
(少し緊張する……けど)
(それ以外にすごく楽しみかも……)
賑やかな雰囲気につられるように、私の胸も自然と高鳴る。
トルマリ「やっぱり、このドレスにしてよかった~」
レースたっぷりのドレスを着てはしゃぐトルマリはいつも以上にかわいく、煌びやかなドレスに身を包んでいる人達の中でも、一番目立っていた。
(トルマリ、やっぱりかわいいなぁ)
私が思わず見とれていると、視線に気づいたのかトルマリも見つめ返してくる。
けれど……
トルマリ「……」
〇〇「……? どうしたの?」
トルマリは眉をしかめながら私の姿を見つめた後、口を開く。
トルマリ「衣装合わせの時も思ったけど……〇〇のドレス、やっぱりちょっと地味だよ」
〇〇「えっ……そうかな?」
(私はこのくらいの方が落ち着くんだけど……)
シンプルなロングドレスに身を包んだ私をまじまじと見つめて、トルマリは大きくため息を吐いた。
トルマリ「〇〇は足が綺麗なんだから、出した方がいいのに……」
〇〇「……!」
トルマリは私のドレスに触れたかと思うと、突然裾をめくり上げた。
〇〇「ト、トルマリ……! 恥ずかしいからやめて」
トルマリ「え~? こんなに綺麗なのになぁ……」
私が恥じらいながら懇願すると、トルマリはしぶしぶとドレスから手を離す。
すると……
トルマリ「あっ、あそこにティアラがある!」
会場奥に飾られたティアラに気づいたトルマリが、嬉しそうに声を上げて祭壇に駆け寄る。
トルマリ「わぁ~、やっぱりかわいいな~」
〇〇「ふふ、そうだね」
ため息交じりにつぶやくトルマリがかわいくて、私は思わず目を細めた。
けれどもその様子が気に入らなかったのか、彼は頬を膨らませ……
トルマリ「〇〇、今、ぼくのこと笑ったでしょ!」
〇〇「ごめん、トルマリがかわいくて、つい……」
トルマリ「もー! ひどいなぁ~」
なおも頬を膨らませるトルマリに、私は苦笑しながら平謝りをする。
その時…-。
(……あれ? あの人……こっちを見てる?)
少し離れた場所からこちらを見つめる男の子に気づいた私は、少しの間様子を窺う。
すると、どうやらその視線はトルマリに注がれているようで…-。
トルマリ「ちょっと〇〇、聞いてるの?」
〇〇「えっ? あ……な、何?」
トルマリ「何じゃないよー。も~、次笑ったら怒るからね!」
〇〇「う、うん。もうしないから……」
そう言ってご機嫌斜めなトルマリをなだめた後、男の子の方へと視線を戻す。
(……あれ? いない……?)
辺りを見回すものの、それらしき男の子の姿はどこにもない。
すると……
トルマリ「……あっ! これ、ぼくの好きな曲だ~」
楽団の演奏曲が変わった瞬間、それまで膨れていたトルマリが笑顔になり……
トルマリ「ねえねえ、〇〇。ここだとちょっと落ち着かないし、あっちでゆっくり聴かない?」
〇〇「あ……うん、そうだね。それじゃあ行こうか」
私はトルマリと共に、パーティホールの隅へと移動する。
そうして、胸に若干の引っ掛かりを感じつつも楽団の演奏に耳を傾けたのだった…-。