第3話 素直な反応

彼の突飛な行動と、恐怖にしばらく放心していると…―。

メモを取り終えたウィル監督が、表情を一変させた。

ウィル「よし、なるほど。また恐怖に対する反応の引き出しが増えたな、これは次の新作に生かそう。驚かせて悪かったね、○○」

○○「今、私の名前……」

ウィル「うん、君、なかなか見どころありそうだから、もっと親しくなりたいなって」

悪びれもせずに、監督はモニタ―の電源を切る。

ウィル「君も、『監督』なんてよそよそしい呼び方はやめて、ウィルって呼んで」

○○「ウィル……さん」

ウィル「うん、改めてこんにちは、○○。僕のスタジオにようこそ!」

にこやかに笑って、腰を抜かしそうになっていた私の肩を叩いてくれる。

ウィル「それにしても、僕を目覚めさせてくれた人が君みたいな人だなんて……ホラーの神様は、僕のことが大好きみたいだ!!」

わけのわからないことを言って、喜び勇むウィルさんに、恐る恐る私は問いかけてみる。

○○「あの、もしかして招待状にあった完成しそうな新作って……」

ウィル「もちろんホラー映画だよ。今君が見たやつ」

明るい声で言って、レンズの向こうでウィンクをする。

(どんな内容なんだろう……最後まで見られるかな……?)

これから先のことを考えて、私は少し気が遠くなったのだった…―。

……

その後、ウィルさんが紅茶を淹れてくれたので、私は気を取り直して、近くの椅子に腰かけた。

ウィル「君、砂糖は何個?」

○○「一つでお願いします」

ウィル「了解」

小さな壺から、角砂糖のようなものをウィルさんが取り出す。

けれど……

○○「なっ、なんですかそれ!?」

ウィル「あ、見た? 可愛いよね! この、しゃれこうべを模した砂糖。この輪郭の型どりとかさ……よくできてると思わない!? 行きつけの喫茶店にあったヤツで、一目ぼれしちゃってさ。頼みこんで譲ってもらったんだよ。コイツも仲間だ――!って叫んでたし」

不健康そうな指先で、ウィルさんは胸元の髑髏型スティックピンを指す。

ウィル「カッコいいよね、これ?」

何て答えていいかわからなくて、沈黙を作ってしまう。

ウィル「……君のその顔は、恐怖でもない、怒りでもない。呆れた顔だな」

○○「……すみません」

ウィル「さ、冷めないうちにどうぞ……この髑髏はあっという間に紅茶に溶けて消えるから」

そう言って、砂糖を一つ摘み上げる。

ウィル「怖いなら溶かしてしまえばいい」

ウィルさんは自分のカップに、小さな髑髏を落とす。

ウィル「……まあいいや。気にしないで。僕、人からよく変わった趣味をしてるって言われるし。でも、女の子の趣味は別かな?」

レンズ越しの瞳が細められる。

どこか色っぽい眼差しが私を見て……

ウィル「だって、君が可愛く見えるのは、この世の摂理的に当然のことだから」

○○「……っ」

伸ばされた指先が、私の頬をくすぐる。

そのまま私の髪を指先に巻き付けながら、じっと見つめる……

ウィル「ね、○○」

名前を呼んだ彼の唇から覗いた歯がホラー映画の中の吸血鬼のようで、胸騒ぎがし始めた。

(気持ちが落ち着かない……)

つい視線を彼から外してしまう。

すると、ふとまた彼の指先が動いて私の顎を捕えた。

○○「……っ」

ウィル「君、さっきの様子を見れば、ホラーが苦手なのはわかるけど……参考までに、好きな映画も教えてもらえる?」

○○「わ、私のですか?」

(映画……好きなジャンルは……)

○○「恋愛ものが好きです」

ヒュウ……と、ウィルさんは賑やかしのような口笛を鳴らした。

ウィル「やっぱり女の子なんだね。僕も次回作には恋愛要素を入れようかな」

視線を明後日の方へ向けて、何やら考えるそぶりを見せると、またメモを取り始める。

ウィル「なんにせよ、君が驚くほど素直だってことがわかったよ! ……まあ、そんな顔を見たくて呼んだんだけどね」

かすかな声で、彼は意地悪そうに微笑んだ。

ウィル「けど、お楽しみは後に取っておいて…… せっかくだから、映画の製作現場を案内してあげるよ!」

これまでの彼とのやり取りを思い出して、胸に一抹の不安が過る。

○○「ウィルさん、私は結構で…―」

ウィル「遠慮しないで!!」

こうして私はウィルさんに手を引かれ、スタジオから連れ出されたのだった…―。

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