第3話 言葉の裏側にある想い

ディオン「俺は、やめとけ」

ディオンさんの突き放すような言葉に、呆然としてしまう…-。

〇〇「ディオンさん……?」

思わず名前を呼ぶと、彼は私から目を逸らして軽く笑った。

ディオン「トロイメアのお姫様が、こんなろくでなしと結婚だって? 冗談にもならない」

彼の言葉や乾いた笑い声が、私の胸に鈍い痛みをもたらす。

〇〇「ろくでなしだなんて、そんなことありません。ディオンさんは…-」

ディオン「そう言ってくれるのはありがたいが、俺はそういう男だぞ。 まあ、かといって優秀な兄弟達の花嫁にやりたくもないが」

ディオンさんは、地の国・イヴィアの第六王子…-。

街で何人もの旅の踊り子をはべらせる彼の自由な振る舞いに、国王様は頭を悩ませていた。

(でも彼女達に会うのは、天の国の情報を集めるためで……)

ディオンさんは空を仰ぎ、流れる雲を目で追う。

ディオン「天の国か……またここに来られるとはな」

口元には笑みを湛えているのに、その瞳には深く暗い色が宿っている。

やがて彼は何かを振り切るように、再び煙管に火をつけた。

ディオン「……なんて顔してる。さっきまで幸せそうな顔はどこいった?」

〇〇「あ…-」

返事を待たず、ディオンさんは私の頭をくしゃっと撫で……

ディオン「じゃあな」

短く言って背を向け、さっさと歩き出してしまった。

(どうしてこんなに、胸が痛いんだろう)

彼の背中は、すぐに小さくなる。

ミントの残り香が、私の胸を切なく締めつけた…-。

……

翌日…-。

ディオンさんの様子が気になった私は、王宮の離れに用意された彼の部屋を訪れた。

ディオン「お前もとことん物好きだな」

部屋に招き入れてくれた彼は、呆れたようにため息を吐くものの、そこに拒絶の色はなく、ほっと胸を撫で下ろす。

けれど……

(この部屋……私の部屋より随分狭い)

(それに、なんだか薄暗くて……)

ディオン「驚いたか?」

ディオンさんが自嘲気味に笑う。

〇〇「……はい」

嘘を吐くのも失礼だと思った私は、思い切って頷いた。

ディオン「はは、お前らしいな」

彼の笑顔が、それまでの自嘲気味なものからすこしだけ明るいものへと変わる。

ディオン「セフィルみたいに、地の国に歩み寄ろうとする者は確かに増えた。 だが……重鎮達を始め、まだ地の国を疎む者は多いからな。 あまりおおっぴらに出てきてくれるな、ということだ」

〇〇「そんな…-」

ディオン「それはイヴィアだって同じことだ。別にどうってことない。 まあ、くだらないことだ……」

少しだけ沈んだ声に、ディオンさんの本音がにじんでいる気がした。

〇〇「ディオンさん…-」

ディオン「だからもう、この話はやめだ。 それに……せっかくお前が、こうして来てくれたんだ」

口の端に笑みを浮かべたディオンさんが、私の髪を優しく撫でる。

そして、そのまま私をベッドまで追い詰めて…-。

ディオン「たっぷりかわいがってやるぞ?」

彼は私の腰に手を回したかと思えば、ベッドに押し倒した。

〇〇「……」

端正なディオンさんの顔が間近に迫るけれど、私は抵抗することなく彼の瞳を見つめる。

その赤い瞳は、黄昏時のような哀愁を帯びていた。

(どうしてこんなに悲しそうな目をするんだろう……)

頬に熱い吐息がかかり、そのまま唇が重なりそうになったけれど…-。

ディオン「……どうした? やけにおとなしいが」

〇〇「それは……。 ……ディオンさんが、悲しそうだからです」

ディオン「……!」

私の絞り出すような声に、ディオンさんの動きが止まる。

私達はただ、薄暗い部屋の中で見つめ合っていた…-。

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