第3話 彼の秘密

ヴィムの一番好きな場所に行きたいとお願いして、向かった先は…―。

○○「綺麗……!」

そこは、美しいお花畑だった。

色とりどりの花が咲き乱れ、ほのかに甘い香りが私の鼻腔をくすぐる。

(いい匂い……素敵な場所)

ヴィム「気に入ったか?」

○○「うん!とっても」

ヴィム「ならよかった。 ……あいつも、ここが好きだったからな」

ヴィムがひとりごとのように、ぽつりとつぶやいた。

○○「あいつ…って?」

ヴィム「あ……いや、何でもない」

するとヴィムは、気まずそうに口をつぐんだ。

(聞かない方がよかったのかな?)

ヴィム「よくここへは、足を運ぶんだ。城にいるよりも街にいるよりも、ずっと落ち着くからな」

○○「そうなんだ。ここへはいつも一人で?」

ヴィム「まあな」

ヴィムは、少しだけ悲しそうに笑って、うーんと伸びをした。

清々しい青空がどこまでも広がっている。

その青に映えるように、美しい花々が風に揺れている。

(これも……あ、これも素敵)

ヴィム「おい、○○。あんまり遠くへ行くなよ」

お花畑の中へ歩き出した私に、ヴィムが声をかけてくれた。

○○「うん!」

ヴィム「あ、そこから向こうは危ないから、こっちにしろ」

○○「うん、わかった!」

色とりどりの花々に、胸を弾ませながら歩き出した……

……

そうして、夢中で花を摘んでいた時だった。

○○「ねえ、ヴィム!見て、こんなに…―」

色とりどりの花束を見せようと振り返ると、そこには誰もいなかった。

○○「ヴィム……?」

(どうしよう。私、はぐれて……)

きょろきょろと辺りを見回すれけどヴィムの姿はどこにも見えない。

一面に咲き乱れる花が、私の方向感覚を狂わせた。

その時…―。

(あれは……?)

花畑の先にある平原に、小さな洞窟があるのが見えた。

美しい花々とは対照的に、暗い雰囲気が漂うけれど…―。

なぜだか吸い寄せられるように、洞窟の中へ足を踏み入れてしまった。

洞窟を少し進むと…―。

○○「……!」

洞窟の壁に、錆のついた拘束具が垂れているのを見つけた。

(これは……?)

恐怖を感じながらも、恐る恐るそれに手を伸ばした時…―。

ヴィム「○○」

肩をつかまれ振り返ると、ヴィムが息を切らし、神妙な面持ちで立っていた。

ヴィム「急に姿が見えなくなるから……こんなところにいたのか」

○○「う、うん。あの、ここは……」

ヴィム「……」

○○「ヴィム?」

ヴィムは顔を曇らせ唇を噛み締めたけれど、その後、ためらいがちに口を開いた。

ヴィム「なんでもない。行くぞ」

ヴィムがやや強引に、私の手を取る。

その時、彼の手首の痣が視界に入った。

(まさか……)

○○「ヴィム、これって、ヴィムが……?」

恐る恐るそう口にすると…―。

ヴィム「……ああ。 ここは、満月の夜に、俺を繋いでおくための場所だ」

(ヴィムを……繋いでおく?)

ヴィム「どうせこの国にいれば、知れることだろうから話すが……。 俺の一族は、ライカンスロープなんだよ」

○○「ライカンスロープ?」

ヴィム「狼男だ。満月の夜に、狼の姿になる」

(……狼男!?)

ヴィム「血筋はもう薄れてきてるから、今は一族で俺だけなんだけどな。 狼の姿になると。野生の血が騒ぎだす。 だからここに、俺自身を繋いでおくんだ」

○○「……そんな」

ヴィム「そんな顔しなくていい。いつものことだ」

何でもないようにヴィムは笑うけれど…―。

○○「何でもないって……こんな、拘束具で繋ぐなんて」

そう言うと、ヴィムは視線を地面に落とした。

ヴィム「……人を、襲っちまうんだよ」

ヴィムがぽつり、とそうつぶやいた。

○○「そんな……」

ヴィム「だから、いつものことだって言ってる。もういいだろ、行くぞ」

彼の腕に刻まれた深く赤い痣が、もう何年も、ヴィムが自分自身をそうして傷つけていることを物語っていた。

○○「ヴィム……」

ヴィムに引っ張られるように手を引かれ、私はその洞窟を出た…―。

その日の夜…―。

(ここは……どこ?)

突然目の前に、黒髪の綺麗な女の人が現れた…―。

黒目がちの瞳の下に、印象的な泣きぼくろがあり、それがいっそう魅力的だと思った。

(あなたは……?)

??「お願いします……ヴィムを助けてあげてください」

(ヴィムを?)

??「彼は……私のせいで……」

彼女は頬に一粒の涙を落すと、次の瞬間にはもう、姿を消してしまっていた…―。

??「……い……おい……」

○○「ん……」

肩を揺すられて、夢の中からゆっくりと戻ってくる。

??「おい……○○」

○○「……ヴィム……?」

瞳を開くと、ヴィムの金色の瞳が心配そうに私を見つめていた…―。

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