第3話 物語の主役

建物の窓からこぼれる光が、夜の空気を柔らかく照らしている…-。

ドロワット「まずはこの絵本の情報を集めるとするか」

ドロワットさんは周囲を見回しながら歩き始めた。

私は、その後を追おうとして……

〇〇「あ……っ」

足がふらつき、ドロワットさんの背中に倒れ込んでしまう。

ドロワット「……っと、どうした?」

ドロワットさんが驚いた様子で私を振り返った。

〇〇「ごめんなさい……」

ドロワット「別に、いいけどよ。お前って、結構そそっかしいのな」

ドロワットさんは、よろめいた私の肩をそっと支えてくれる。

ドロワット「ん……?」

私の足元を確認した彼の瞳が、軽く見開かれた。

ドロワット「おい、その靴……」

〇〇「え?」

足元に目を落とすと、私の靴はいつの間にか、華奢で透明な靴に変わっていた。

(さっきまで自分の靴を履いていたはずなのに……)

ドロワット「ちょっと見せてみろ」

石畳に跪くと、ドロワットさんは私の足首に触れて……

〇〇「……っ」

彼の指先の感触に、胸が小さく音を立てた。

ドロワット「この靴、ガラスでできてるみたいだな……」

(ガラスの靴……?)

その言葉に引っかかりを覚えていると、どこからともなく男性の明るい声が聞こえてきた。

男性「さあさあレディ達、今夜はお城で舞踏会だよ! 早く乗った乗ったぁ~!」

声のする方へ視線を向けると、大きなカボチャ型の馬車が停まっていて……

ドロワット「……あの馬車、魔法で動いているみたいだな」

〇〇「魔法で……?」

馬車に乗り込む女性達は、なぜか沈んだ表情を浮かべているように見える。

(舞踏会って言ってたのに……どうして皆、あんなに悲しそうなんだろう?)

馬車はあっという間に女性達を乗せて、軽やかに走り去って行った。

ドロワット「……もしかして、この物語は『ガラスの靴』か? 昔、母親が読んでくれた絵本にそんな話があった」

ドロワットさんは、記憶をたどり寄せるように目を細める。

ドロワット「ガラスの靴を履いた女の子が、悪い魔法使いに邪魔されながらもお城の舞踏会にたどり着く話だ」

〇〇「! 少し内容は違いますが、私も似たお話を聞いたことがあります」

そう頷くと、彼の視線が私の履いているガラスの靴に向けられる。

ドロワット「お前が履いているのは、この物語のタイトルにもなってる、ガラスの靴だろうな。 たぶんお前は、童話の主人公として、この世界に入り込んでいるんだ」

〇〇「私が……?」

驚きの余韻に浸る間もなく、通りの向こうから荒々しい足音が近づいてくる。

見れば、厳めしい鎧に身を包んだ兵士達が険しい表情で私を睨んでいた。

兵士1「そこの女、何をしている!」

兵士2「若い女は必ず舞踏会に参加するようにと、王子からのお触れが出ていただろう!」

〇〇「え?」

ドロワット「はあ? お前ら、何ふざけたこと言ってんだよ」

ドロワットさんは私の肩を抱き寄せ、兵士達に向かって歩み出た。

〇〇「この人達は……?」

ドロワット「知らねぇな。『ガラスの靴』に、こんなシーンあったか……?」

ドロワットさんの声にも、わずかな戸惑いがにじんでいる。

兵士達は次々とやって来て、気づけば私達は周りを取り囲まれていた。

兵士1「なんだ貴様は! 邪魔をするなら、ただじゃおかんぞ!」

兵士達はドロワットさんに向かって剣を抜き、威嚇するように声を張り上げる。

ドロワット「「へえ……? 邪魔をしたら、どうなるって?」

苛立ちを含んだ低い声が、空気を震わせた。

ドロワット「東の大魔法使い、ドロワット様の女に手を出そうとするたぁ、いい度胸じゃねぇか」

ドロワットさんは片腕を高く天に向け、パチンとその指を鳴らした…-。

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