ひんやりとした風が、肌を心地よく撫でていく…-。
街灯の光が木々を照らし出し、並んだ窓からは柔らかい光が漏れ出していた。
(ここは、ゴーシュくんの魔法で作られた世界らしいけど……)
〇〇「素敵な街ですね。魔法で作られた街だなんて思えません」
ドロワット「そうだろ!? あの歳でこんなに高度な魔法が使えるなんて、やっぱり俺の弟は天才だな!」
私の言葉に答えるドロワットさんの声は、明るく弾んでいて……
〇〇「魔法の力でこんなことができるなんて、驚きました」
ドロワット「簡単なことじゃねぇけどな。ゴーシュの才能と、いたずら心があってこその魔法だ」
(ゴーシュくんのことを話す時のドロワットさん、本当に楽しそう)
生き生きと語る彼の表情を見ていると、微笑ましくて頬が緩んだ。
ドロワット「さて、元の世界に戻るためのルールだが……。 この世界で新しい物語を完成させれば、絵本の世界を出るために必要な鍵が現れるはずだ」
〇〇「でも……どうすれば物語が完結したことになるんでしょう?」
(この絵本がどんなお話かもわからないし、いったい何をすれば……?)
私は手がかりを求めて、周囲をもう一度見渡す。
すると、ドロワットさんの大きな手が頭の上に乗せられた。
ドロワット「どんなに不安そうな顔すんなって。 いざとなったら、俺の魔法で強引に出ることもできるからよ」
〇〇「そうなんですか?」
ドロワット「そりゃあ、俺はあいつの兄貴だからな! だけど…-」
ドロワットさんはそっとまぶたを伏せて、迷うような表情を浮かべる。
ドロワット「せっかくゴーシュが、こんなに大がかりな魔法を用意したわけだし……。 俺としては、新しい物語を作ることに強力してやりてぇんだよな」
風が彼の艶やかな髪を揺らし、街灯りをきらきらと弾く。
ドロワット「とはいえ、もしお前の気が進まないんなら……一旦、絵本の外に出る方向で考えてやる」
私に向けられる眼差しには、気遣いがにじんでいる。
(やっぱりドロワットさんは、弟思いだな)
(でも、私のことも気にかけてくれてる……)
彼の優しさを感じて、胸が温かくなる。
〇〇「いえ、せっかくゴーシュくんが子ども達を楽しませるために用意してくれたことですし…-。 きちんと物語を完結させるために、私も頑張りたいです」
その瞬間、ドロワットさんは目を輝かせて、私の両手をぎゅっと握った。
ドロワット「それでこそ〇〇だ! じゃあ、まずは俺達がなんの絵本に入り込んだのか調べねぇとな」
〇〇「はい。頑張りましょう!」
ドロワットさんの楽しそうな声を聞くうちに、いつしか私の心も弾んでいたのだった…-。