第4話 王子様

栗毛の美しい馬が、優雅に草原を駆けていく…-。

村人「馬を捕まえて、ブラッシングしてやってくれ。 明日花嫁を乗せるんだから、綺麗にしてやってくれよな」

馬に見とれていた私は、その声でハッと我に返った。

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村人1『ケロタは客人だけどな、そこの二人は違うぞ』

村人2『もし式に参加して歌を聴きたいなら、ちゃんと働いて式の準備の手伝いをするんだな』

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(……そうだった)

村人「そいつは野生みたいなもんだからな。蹴られるなよ~」

ビッキー「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」

ビッキーさんが私の顔を覗き込み、心配そうに眉をひそめている。

〇〇「大丈夫です。すみません」

ビッキー「休んでて。僕がやるよ」

ビッキーさんは、そっと私の肩を叩いた。

ケロタ「おいビッキー、あまり遠くへ行くなよ。ワシは昼寝の時間だ」

ケロタが、切り株の上で落ち葉を布団に横になっている。

ビッキー「はいはい」

ケロタが寝息を立て始めると、ビッキーさんはためらいなく馬に近づいていった。

〇〇「ビッキーさん、その仔、蹴るって言ってましたよ」

ビッキー「大丈夫だよ。そんなこと、しない」

ビッキーさんは、余裕たっぷりにそう言った。

ビッキーさんが馬に近寄ると、走っていた馬が首を傾げて足を止める。

ビッキー「……いい子だ」

ビッキーさんは静かに馬のお腹を撫で、たてがみを掻いた。

〇〇「すごい……かわいいですね。 蹴るだなんて、おとなしい…-」

駆け寄ろうとすると、ビッキーさんは静かに首を振る。

ビッキー「静かに。ゆっくり近づいて。 声も、できるだけ低く穏やかに」

〇〇「え……? はい」

言われた通りにすると、ビッキーさんが私の手を持って馬のたてがみに触らせてくれた。

〇〇「わあ……あったかい」

ビッキー「うん、上手だ。 馬は頭がいいから、怯えたり落ち着きない振る舞いをすると威嚇してくるんだ。 そのまま、ゆっくりお腹を撫でてごらん」

ビッキーさんは、私のそう言うと、優しく馬のたてがみにブラシを通し始めた。

馬は鼻をビッキーさんの肩にこすりつけて、気持ちよさそうに目を閉じている。

村人「驚いたな……なんだ、アンタ馬の扱いに慣れてるのか?」

ビッキー「ええ……まあ、世話は初めてですけど」

(そっか……王子様だもんね)

馬の横に立つビッキーさんはあまりにしっくりと景色に溶け込んでいて、まるでそこだけ一枚の絵のように見える。

ビッキー「どうした? 僕、顔に何かついてる?」

〇〇「いえ……ビッキーさんが、なんだかさっきまでと違う人みたいだから」

ビッキー「そう?」

〇〇「はい」

(だって、さっきまでドジなことばかりして……)

ビッキーさんから目を離せずにいると、彼はふと寂しげにまつ毛を伏せた。

ビッキー「……君は、いなくなってしまう人だから」

〇〇「え?」

消え入りそうな声に、聞き返そうとしたけれど……

ケロタ「わわわわわわ!」

ケロタの声が近づいてきて、ビッキーさんの肩に貼りついた。

ビッキー「お帰りケロタ」

ケロタ「遠く行き過ぎたか! せっかく目覚めた早々美女スズメを口説いてたとこだったのに~!! ちくしょー! ビッキー、早く呪い解くぞ~!! 今度こそ至福のメロディーだ!」

ビッキーさんが楽しそうに笑う。

先ほどの寂しげな声が、胸の中でこだましていた…-。

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