いたずらウサギのパーティが始まるまで、あと数時間……
私は、最終準備を進める彼らの手伝いを申し出た。
〇〇「この卵は向こうに並べばいいですか?」
モルタ「はい」
卵の入った籠を手に取る私に、モルタさんが穏やかな笑みを向ける。
モルタ「手を貸してくださって、ありがとうございます」
〇〇「そんな…-」
返事をしようとした、その瞬間…-。
男の子1「ぴょんっ!」
男の子2「ぴょーん!」
〇〇「っ……!」
突然、ウサギのかぶり物をした子ども達が現れて、卵の飾りが入った籠に、真綿の雪を降らせた。
モルタ「おや……いたずらされてしまいましたね。いたずらウサギの真似でしょうか」
かわいらしいいたずらを見て、モルタさんは口元に笑みを浮かべているものの……
その瞳は、少しも楽しそうに見えない。
(子ども達はこんなに楽しそうなのに……モルタさんは、楽しみじゃないのかな?)
(皆のお世話もしないといけないし、忙しくてそれどころじゃないとか……?)
考えていると、モルタさんが立ち上がり、私の持つ籠を手に取った。
モルタ「向こうで別の作業をしている子ども達もいるんですよ。よければご案内します」
どこか淡々と言って、モルタさんはそのまま歩き出そうとする。
〇〇「モルタさん、待ってください」
私は思わず彼を呼び止めていた。
モルタ「……どうされました?」
モルタさんは立ち止まり振り返ると、不思議そうに小首を傾げた。
モルタ「何かまだ、気になることがあるのですか?」
モルタさんは、まるでこの国の子どもへ接するように、きちんと私に向き直り、穏やかな笑みを見せる。
〇〇「モルタさんは、今……」
(このままじゃなんだか……良くない気がする)
心を決めて、モルタさんの瞳をしっかりと見つめた。
深紅の瞳の奥は、やはり悲しげに渇いているように感じられる。
〇〇「今、楽しいですか?」
モルタ「え……?」
〇〇「モルタさんにも、もっとパーティを楽しんでほしいんです。 せっかくこれだけ、皆が楽しみにしているものだから……。 私は……」
長い沈黙が、私達の間に横たわる。
やがてモルタさんは、少しだけ感情のこもった声で口を開いた。
モルタ「……考えてしまうんです。毎年行われるこのパーティ……。 一生懸命背伸びをして飾りつけしていた子どもが、はしごを使わなくなり……。 寝る前に必ず絵本を読んでほしいとせがんでいた子どもは、いつしか読み聞かせる側になって……」
モルタさんの声からは、悲しみと迷いがにじんでいるようで……
モルタ「私達は子どものまま。体が大きくなってもヒヨコでいることはできる……けれど…-」
そこでいったん言葉を詰まらせ、モルタさんは私の視線から逃れるようにうつむいた。
〇〇「モルタさん……」
この大人の許されない国で、彼がどんな思いで子ども達と過ごしているかを考えると、胸が軋む。
〇〇「ごめんなさい。苦しませたくて言ったわけじゃないんです」
モルタ「ええ。わかっています……」
〇〇「……今は、ただ何も考えないで、純粋にパーティを楽しんでみませんか? 今だけは、その辛い気持ちから解放されて……」
モルタ「え……?」
モルタさんの瞳が、大きく揺らいだ…-。