第3話 ヒヨコとニワトリ

いたずらウサギのパーティ』の準備を子ども達皆で進めていると聞いて、私はモルタさんと一緒に、サーカステントまで足を運んでいた。

〇〇「綺麗な卵……とっても上手ですね!」

モルタ「この子達が頑張って作ってくれたんです。 卵は飾るためのものと、探して遊ぶためのものがあるんですよ。 それからこちらは……お茶会の準備。 テーブルセットの準備から、並べるお菓子の準備まであるので、少々大変ですが……」

真剣に作業をする子ども達の手元を確認しながら、モルタさんが教えてくれる。

男の子1「モルタさま! このクッキー見てください。僕が焼いたんですよ」

モルタ「ああ、これはおいしそうですね。パーティが楽しみです」

男の子へ丁寧に答えた後、彼は私の方に振り返って微笑む。

モルタ「お話の途中に、すみません」

〇〇「いえ……。 皆、生き生きしていますね」

モルタ「ええ、楽しみで仕方がないのでしょう」

それからもモルタさんは、準備を進める子ども達に声をかけ、時折指示を出していた。

(モルタさんはやっぱり、大人としての役割を果たしているように見える)

(本人はそれを望んでいないのだとしても……)

そんなことを考えていた時、また子どもが駆け寄ってきた。

女の子1「ねえねえ、モルタさま! 卵が割れたら何が生まれるの?」

モルタ「卵……」

するとその話に興味が湧いたのか、一気に子ども達が集まり始める。

男の子2「そんなのも知らないのかよ。ヒヨコが生まれるんだよ」

男の子3「ヒヨコは、大きくなったらニワトリになるんだ!」

女の子1「ヒヨコ……ニワトリ……」

女の子2「モルタさま、名前が違うのにそれって同じ生き物なの? 大人になったら、名前が変わっちゃうの?」

まっすぐな眼差しで問いかける子どもを見つめ返し、モルタさんは静かに口を開く…-。

モルタ「ヒヨコは大人になりません。ニワトリという、別の生き物になってしまったんですよ」

(え……?)

女の子2「そうなんだ!」

男の子2「え~……ニワトリはヒヨコといっしょなんじゃないの?」

男の子3「でも、モルタさまは間違いなんか言わないよ」

子ども達は、話しながら自分達の作業へ戻っていく。

その様子を、微笑を浮かべながら見守るモルタさんに……

〇〇「モルタさん……今のは、どういうことですか?」

モルタ「事実を言ったまでです」

穏やかなモルタさんの瞳が、ふっと……体温をなくしたように冷めて見える。

モルタ「……大人という違う生き物になって……死んでいくのです。 いっそのこと、卵という囲いの中で死んだように眠っていられたら幸せなのに……」

その声音はとても静かで淡々としていて……

モルタさんの中にある底知れない部分に触れた気がして、ぞくりと体が震えた。

(モルタさん……)

大人なのか、子どもなのか……彼が本当にどちらでいることを望んでいるのかはわからない。

ただ……

(笑っていてほしい)

私は穏やかな彼の笑みが見たくて、自分にできることを探したのだった…-。

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