白い雲が、緩やかに空と海の間を流れていく…―。
オリオン「そんなに大きな島ではなさそうだ。少し歩いてみるか」
口元に笑みを浮かべ、オリオンさんは私に手を差し出す。
○○「え……?」
オリオン「どうした?行かないのか?」
○○「い、いえ……」
わずかに跳ね上がる眉を見て、私は慌てて手を重ねた。
気遣うように優しく手を引いてくれる彼に、胸が甘い音を刻み始める。
(やっぱり……いつものオリオンさんと違うような。 いつもだったら……勝手に手を掴んだり……その…―)
つい浮かんだ想像を頭の隅に追いやり、私の手を引く彼を見上げる。
その視線さえ予想していたのか、オリオンさんが面白そうに口元を歪めた。
オリオン「何を期待しているんだ?」
からかうような眼差しから逃れようと視線を逸らした私は…―。
○○「期待なんて……」
オリオン「ふっ……お前の顔は正直だな。その期待に応えてやらなくもないが?」
○○「っ……!」
とっさに手を離そうとするけれど、結局彼の手に捕まってしまう。
オリオン「ああ、そのくらい威勢がいい方がお前らしい」
絡め取られる指先に、そっと彼の口づけが落とされる。
オリオン「まあ今は、ここまでにしておくか」
意地悪く笑うその表情に、私は結局翻弄されてしまうのだった…―。
…
……
島の内部へ足を一歩踏み入れただけで、景色は深い緑に包まれた。
木々に覆われた森は神秘的な静けさに包まれ、光の尾を引くように何かが舞っている。
オリオン「ほう……」
木々を見上げ、オリオンさんが感心したように声を上げた。
○○「どうしたんですか?」
オリオン「この辺りにある植物は、アンキュラの地にも生えていない。 地上では、絶滅してしまった植物だ」
○○「そうなんですね……」
尾を引く光へと視線を向けると…―。
高い木々の枝から蔦が垂れ下がり、淡く光る紫色の花をつけていた。
(まるで……時が止まっているみたい)
ざわめく木々の音を聞きながら、ふと心の中でつぶやくと…―。
オリオン「ここは時を止めたままなのかもしれない」
思っていたことと同じ言葉が聞こえ、私ははっとオリオンさんを見つめる。
オリオン「何かあったのか?」
○○「その……。 心を読まれたのかと思って……」
オリオン「読めるのなら、こんなにも苦労はしていない」
顎を取られ、オリオンさんの顔が近づく。
○○「っ……!」
オリオン「お前の反応は、いつ見てもかわいらしいな」
何を言われるのだろうと思いながら、オリオンさんの瞳を見つめ返すと…―。
思いがけず、静かで優しい眼差しが返ってきた。
オリオン「時を止めた場所か……。 俺達もこのまま、ここで悠久の時を二人きりで過ごすか?」
柔らかな声色で問われて、私の胸が早鐘を打つ。
○○「あの……」
オリオン「……どうした?」
○○「いえ……素敵だなって思って」
すると、オリオンさんはわずかに目を見開いて……
オリオン「どうした。随分と素直だな」
満足したように、私の頬を指で撫でた。
オリオン「かわいい奴だ……」
(オリオンさんが楽しそうで……ちょっとだけ優しい。 ここに来てよかった)
触れる手の優しさを感じながら、少しずつ募っていく想いを自覚する。
(それに、オリオンさんのことをもっと知ることができて……嬉しいな)
ざわめく木々が、まるで自分の心を表しているかのように大きく揺れていた…―。