カゲトラさんと小説展ですごしてから、数日後…-。
カゲトラ「急に悪いな」
〇〇「いえ、大丈夫です」
滞在先に来てくれた彼を招き入れた後、向かい合う形で座る。
〇〇「私もカゲトラさんに会いたかったので……」
カゲトラ「え……?」
〇〇「あっ、ええと……先日いただいた本の感想を伝えたくて」
カゲトラ「ああ、そういうことか。 どうだった?」
〇〇「読み始めたら止まらなくなって、最後まで一気に読んじゃいました」
カゲトラ「そうか。気に入ったみてえで何よりだ」
カゲトラさんは、安堵したように息を吐いた。
カゲトラ「読み終わったってことは、この前伏せたことを話してもよさそうだな。 もうわかってると思うが、この小説はハッピーエンドじゃない」
〇〇「そうですね……」
満月の下で、文豪と令嬢が別れるシーンが頭をよぎる。
カゲトラ「正直なところ、結構揉めたんだ。この本を今回の小説展に出していいもんかどうかって。 人それぞれだが……世の中的に、この手の作品はハッピーエンドを求められやすいからな。 だからお前に勧めるのも、微妙かもしれねえと思ったんだが……」
カゲトラさんが静かに障子を開き、わずかに欠けた月を見上げた。
『会えない日々は、月を見て君を想う……』
私は、小説の一節を思い返す。
自由に会えるわけではない二人は、いつしか月を見上げながら互いを想うようになっていた。
(結局、二人が結ばれることはなかったけれど……)
〇〇「でも……」
カゲトラ「ん?どうした?」
カゲトラさんの視線が、私に向けられる。
〇〇「私は、これを読んで悲恋だとは思わなかったんです」
カゲトラ「え……? ……それは、どうしてだ?」
〇〇「的外れな意見かもしれませんけど……」
カゲトラ「ああ、構わねえ。聞かせてくれ」
頭の中で考えをまとめてから、ゆっくり口を開く。
〇〇「確かに、二人は結ばれませんでした。 だけど令嬢にとって、文豪と出会えたことはこれ以上ないほどの幸せで……。 だから、それで充分だったんじゃないかって思うんです。 上手く言えないんですけど……。 婚約者と結婚式を挙げるシーンで、凛と背筋を伸ばして歩く令嬢の描写を見て、そう感じたんです」
カゲトラ「……」
カゲトラさんが、大きく目を見開く。
そして次に彼からもたらされた言葉は、意外なものだった…-。