第4話 作家への礼儀

表情を曇らせるカゲトラさんが、棚に積まれた『月夜ニ君ヲ想フ』を見つめている…-。

〇〇「カゲトラさん、どうかしたんですか?」

カゲトラ「ん? ああ、悪い。どうしたかってほどのことじゃねえんだが…―」

そこまで言いかけたところで、彼は言葉を止めてしまう。

そして……

カゲトラ「……やっぱり秘密だ」

〇〇「えっ? どうして……?」

カゲトラ「悪い。別にからかおうってわけじゃねえんだ」

カゲトラさんは戸惑う私に微笑みかけ、そっと髪を撫でてくれる。

カゲトラ「ただ……少しでもその本が気になるなら、先入観をなしで読んでもらいたくてな。 それが、作家への礼儀っつーか……。 だから今は語るのを控えさせてくれ」

優しい口調で言うカゲトラさんに、私は…-。

〇〇「素敵ですね」

カゲトラ「素敵?」

〇〇「はい。同じ作家ならではの考え方というか……やっぱりカゲトラさんは優しいなって」

カゲトラ「褒めすぎだ。んな大層なもんじゃねえって」

そう言うカゲトラさんの笑みは、先ほどよりもさらに深まっていた。

その姿を見ているだけで、胸の中にある彼への淡い気持ちが、一層色濃くなるような感覚を覚え……

〇〇「読むのがますます楽しみになってきました。 実はヴィルヘルムが舞台だと聞いて、是非読みたいと思っていたんです」

(ヴィルヘルムは、カゲトラさんの住む国だから……)

その言葉は恥ずかしさから飲み込んでしまったけれど、私は彼に素直な気持ちを伝える。

すると彼は、嬉しそうな顔をして……

カゲトラ「悪い。この二冊を包んでくれるか?」

近くを通りがかった係員さんを呼び止めると、カゲトラさんは私の手にしていた本と、『月夜ニ君ヲ想フ』を係員さんに手渡した。

〇〇「あの、私が…-」

カゲトラ「いや、いい」

お金を払おうとする私を、彼がそっと押しとどめる。

〇〇「でも……悪いです」

カゲトラ「いいから受け取れ。 ……俺が、お前に贈りてえんだ」

カゲトラさんは目を細めながら、私の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。

その優しさが嬉しくて……

〇〇「ありがとうございます」

綺麗に包装された本を受け取った瞬間、自然と笑みがこぼれる。

カゲトラ「ああ」

ふっと笑うカゲトラさんに再びエスコートされながら、私はその場を後にし、その後も本の香りと温かな幸せに包まれながら、彼とのひとときを過ごすのだった…-。

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