人々で賑わう小説展の会場内を、カゲトラさんにエスコートされながら歩く…-。
カゲトラ「まずは向こうの会場に行くか。 あっちでは実際に本を手に取ることもできるし、気に入ったら借りたり買ったりもできる。 今回のために、国中からいろいろ集めたからな。 気に入ったもん見つかるまで、いろいろ手に取ってみるといい」
〇〇「楽しみです」
笑顔を向けると、カゲトラさんも小さく微笑む。
先ほどから彼は着物の私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いてくれていた。
(やっぱりカゲトラさんって、優しいな)
最初に出会った時こそ、怖い人かと思ったけれど……
絵本に対する姿勢や人との接し方を見て、私の考えは変わっていった。
(以前と変わらないカゲトラさんでよかった)
そう思っていると…-。
カゲトラ「……なんか新鮮だな、こういうの」
〇〇「え……?」
カゲトラさんの言葉に意味がわからず、彼を見上げる。
カゲトラ「いつもイブキや街の子ども達に、お前を独占されちまってたからな。 こんなふうに二人きりでってのは、なかなかなかっただろ?」
言われてみれば、カゲトラさんと過ごす時はだいたい、大はしゃぎの子ども達と一緒だった。
(カゲトラさんは面倒見が良くて、子ども達のことをいつも一番に考えてる優しい人だから……)
病気がちの妹……イブキちゃんを始めとした街の子ども達から、彼はとても慕われていて、その姿を思い返すと自然に笑みがこぼれる。
〇〇「カゲトラさんは、子ども達に大人気ですから」
カゲトラ「それを言うならお前だろ。 あいつら事あるごとに、お前は次いつ来るんだって大騒ぎで…-。 っと、悪い。せっかく二人きりだってのに、結局子ども達のことばっかだな」
カゲトラさんは苦笑すると、仕切り直すかのように咳ばらいをし……
カゲトラ「〇〇。 お前さえよけりゃ、今後はこういう時間をもっと増やしていこう」
〇〇「……!」
思いもよらない言葉に思わず驚いてしまったけれど、すぐに胸が温かな幸福感で満たされる。
〇〇「はい」
ほんのりと頬が熱くなるのを感じながら頷くと、カゲトラさんは、いつもより柔らかな笑みを浮かべたように見えた…-。