文壇の国・東雲 薫の月…-。
多くの著名な作家達が集うこの国では今、数日間に渡って行われる盛大な小説展が開かれている。
(カゲトラさんに案内してもらえるなんて……楽しみだな)
招待を受けた私は、東雲と地続きの国であるヴィルヘルムの王子であり、マーグレットという名前で活躍する、人気絵本作家のカゲトラさんと約束していた。
すると…-。
カゲトラ「よく来たな。〇〇」
声をかけられ振り返れば、背の高い彼の姿が視界に飛び込んできた。
〇〇「カゲトラさん。お久しぶりです」
カゲトラ「ああ。 今日は、文壇の国が誇る数多くの作品が展示されてる。 お前が気に入るものもあるだろうから、楽しみにしているといい」
〇〇「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、カゲトラさんは笑みを深める。
主催者の一人である彼は、ネクタイを締めたかっちりとした格好をしていて……
(こういう服装も素敵だな)
いつもと違うその姿に思わずドキリとした、その時だった。
カゲトラ「……綺麗だな」
〇〇「え……?」
カゲトラ「着物。すげえ似合ってる」
そう言ってカゲトラさんは、軽く曲げた腕を私の方に向ける。
〇〇「ありがとうございます」
カゲトラさんの腕に手を添えると、彼が優しい笑みを浮かべた。
そして……
カゲトラ「……行くか」
私は彼にエスコートされながら、会場の奥へと歩みを進めるのだった…-。