文壇の国・東雲 薫の月…-。
多くの小説家を輩出するこの国では今、大規模な小説展が開催されている。
王子としてこの小説展を取り仕切る藤目さんから招待を受け、私は会場を訪れていた。
藤目「彼の恋愛小説、特にこの『月夜ニ君ヲ想フ』は、この国にとどまらず多くの人に愛されてきました。 その美しい情景描写、恋心の機微の表現は人々の心を打ち…-」
東雲の王子であり、恋愛小説家でもある藤目さんが壇上でスピーチをしている。
心地よい藤目さんの声に耳を傾けていると……
(あ……)
藤目「……」
藤目さんと視線がぶつかり、彼がにっこりと微笑む。
多くの人が集うこの会場で彼が私を見つけてくれたことが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
そして、彼の挨拶が終わり……
藤目「〇〇さん、来てくれたんですね。ありがとうございます」
人の波を抜け、藤目さんが声をかけてくれた。
〇〇「藤目さん、招待いただきありがとうございます」
藤目「いえ……」
藤目さんが、私の姿をまじまじと見つめる。
藤目「ああ、着物で来てくれるとは……貴方にとても似合っていて素敵です」
〇〇「あ、ありがとうございます」
優しく愛おしげに目を細められて、胸の鼓動がさらに加速していくのだった…-。