宝石のように輝く夕陽が、空を橙色に染め上げる頃…-。
どうにか恋人の振りを完遂し、私達は宝石店を後にした。
サイ「無事に話が聞けてよかったね」
〇〇「そうですね」
私達ににこやかに接客してくれた、女性店員さんのことを思い出す。
〇〇「作戦成功ですね」
サイ「うん。ちょっと焦っちゃったけど、君がいてくれて助かったよ」
(恋のお手伝い、か。素敵なお仕事だな)
そこでふと、サイさんのことが気になってしまう。
(サイさんの恋は……)
サイ「どうしたの? 何か心配事?」
顔を覗き込まれ、予期せず心臓が跳ねる。
〇〇「いえ、なんでもありません!」
サイ「……本当かな?」
間近で綺麗に目を細められると、さらに鼓動が速くなってしまう。
〇〇「あ……」
サイ「君は素直だから、僕ですらわかっちゃうよ」
くすりと笑われ、私は観念して口を開いた。
〇〇「あの…-」
サイ「そうだよね。結局、好きなものは聞き出せなかったし」
〇〇「え」
サイ「怪しまれずに自然に聞き出すには、どうしたらいいかな。 ……探偵って難しいね、考えが甘かったみたいだ。きちんとやり方を考えなきゃ」
〇〇「……」
真摯に依頼と向き合うサイさんを見ていると、自分がものすごく恥ずかしくなった。
サイ「〇〇?」
〇〇「いえ……なんだかすみません」
サイ「どうして謝るの?」
〇〇「それは…-」
サイ「ふふっ……変な〇〇」
ちらりと視線を上げると、夕陽に照らされたサイさんの横顔が目に入った。
(サイさん……)
その真摯な眼差しに心が打たれる。
(普段は、物静かに皆を見守ってるって感じだけど……)
サイ「もう一度宝石店に行って、周囲の人の話を聞くのがいいかもしれないね」
〇〇「そうですね」
一生懸命な姿を応援したくて、私も気を引きしめた。
城が近づいてきた時、ふとサイさんが道で足を止める。
サイ「……」
そこは、依頼人の男性と話をした喫茶店の前だった。
サイ「依頼人は、彼女とお付き合いがしたいんだよね」
〇〇「はい。一目惚れって言ってました」
サイ「……」
喫茶店の方に向けれていた視線が、ゆっくりと私に移る。
サイ「なんだか、他人事とは思えなくてね……彼の気持ちを応援してあげたい」
そう言ってサイさんが浮かべた綺麗な微笑みに胸が音を立てた。
〇〇「サイさん……」
サイ「ふふ、こんなところでぼんやりしていられないね。帰ってまた相談しよう」
〇〇「はい」
赤くなった頬を夕焼けのせいにして、サイさんと私は再び歩き出した。
穏やかな時間のすぐ後ろに、事件の影が迫っていることも知らないまま…-。