街の外れにある喫茶店は、昼時なのにお客さんの姿はまばらだった。
そんな中、私達はついさっきサイさんが見せてくれた依頼書の主と対面していた。
サイ「この度は、ティーガ探偵団へのご依頼ありがとうございます」
依頼人の男性「は、はい……」
サイさんが柔らかに声をかけるけれど、依頼人の男性は恐縮していて……
依頼人の男性「すみません。ま、まさか本当に依頼をうけていただけるなんて思わなくて」
サイ「はは……そうですね。僕も、期待に応えられるか少々不安なんですが」
依頼人の男性「そんな……! こうして王子とお会いできるだけで光栄です」
優しく笑うサイさんに、男性は少し緊張を解いたようだった。
(これで話も上手くできそう)
サイさんの人柄に尊敬の念を抱きながら、私も男性に挨拶をする。
〇〇「サイさんの助手を務める〇〇です。よろしくお願いします」
すると……男性はふっと笑い、まぶしそうに私達を見つめた。
依頼人の男性「もしや……サイ王子の恋人ですか?」
〇〇「えっ……!」
サイ「えっ……?」
依頼人の男性「なんとなく雰囲気がそう見えて……お似合いだなあって」
男性の言葉に、思わず顔を見合わせてしまう。
サイ「……」
(サイさん、顔が赤い……?)
間近で視線が重なり合い、頬が熱を帯びていって…-。
〇〇「こ、恋人だなんて……」
サイ「こ、恋人というか……」
同時に口を開いてしまって、私達はますます顔を赤くした。
(どうしよう……恥ずかしくて上手く顔が見られない)
ぎこちない空気が漂う中で、男性がほうっとため息を吐く。
依頼人の男性「やっぱりそうなんですね。あ、大丈夫です。誰にも言いませんから」
男性は一人うんうんと頷いた後、もう一度大きなため息を吐いた。
依頼人の男性「羨ましいです……」
そう言って眉を下げた男性に、私は依頼についての話を切り出した。
〇〇「それで……このご依頼なんですね」
依頼人の男性「はい……宝石店で働いている女性に、一目惚れをしてしまって」
話によると、店にも何度か通って、顔見知りにまではなったものの……
(あと一歩が踏み出せない……か)
依頼人の男性「彼女の好きなものが知りたいんです! それを贈って、想いを告げたくて……!」
サイ「なるほど……」
身を乗り出す勢いの男性から逃れるように、サイさんは私に視線を移す。
サイ「……」
その瞳が戸惑うように揺れていた。
〇〇「サイさん。この依頼、一緒に解決しましょう」
サイ「〇〇……うん、そうだね」
サイさんは帽子をかぶり直し、改めて男性に向き直った。
サイ「わかりました。その依頼、お引き受けします」
依頼人の男性「本当ですか!? ありがとうございます……!」
何度もお礼を言う男性に、サイさんはにこやかに笑いかける。
調査期間や詳しい内容に関する打ち合わせが終わる頃には、空はすっかり橙色に染まっていた…-。
男性と別れて、私達は城への帰り道を歩く。
夕陽が私とサイさんの影を地面に長く伸ばした。
〇〇「頑張らないと、ですね」
サイ「うん」
サイさんは真面目な表情のまま、深く頷く。
サイ「せっかく『ティーガ探偵団』に依頼をもらったから、絶対に成功させたいな」
青く輝く瞳は、彼の誠実さを物語っているようだった。
サイ「……でも」
彼は照れたように帽子を目深にかぶり直し……
サイ「僕は正直、こういった話題は少し自信がないから……君がいてくれると心強いよ」
〇〇「え……」
サイ「来てくれてありがとう、〇〇。頑張ろうね」
はにかみながら、サイさんが私に手を差し出す。
〇〇「……はい!」
そっと彼の手に自分の手を重ねると、温かな思いが伝わり合うようだった…-。