黄昏の空の下、私とリドは猫を必死に追いかける…-。
リド「おいっ! 待て……っ!」
猫は路地裏をぐるぐると走り回り、私とリドを困らせる。
(意外にすばしっこい……!)
リド「〇〇! そっちから回り込んでくれ!」
〇〇「う、うん……!」
私は猫が向かう道に先回りして待ち伏せる。
(よし、これなら……)
気を取り直し、こちらに走って来る猫を捕まえようとするけれど……
猫「なーーー!」
〇〇「わっ……」
猫はするりと私の腕を通り抜けて、走り去っていった。
リド「〇〇! もう一回そっち行ったぞ!」
〇〇「わ、わかった……!」
リドが後ろから追いかけ私が向かいから待ち受け、今度こそ猫の行く手を阻もうとするけれど…-。
猫「な~!!!!」
(来た……って、あれっ!?)
猫は急に方向転換し、横にある建物の壁の割れ目にするりと入っていった。
リド「……へ!?」
〇〇「え!?」
助走がついていたリドが猛然と私に突っ込んできて……
〇〇「っ……!」
そのまま、私に覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。
リド「っててて……わ、悪い、〇〇!」
リドに背中を支えられながら、体を起こす。
リド「ほんとに悪い、大丈夫か? 怪我とか…-」
彼の大きな手が私の頬に遠慮がちに触れる。
〇〇「……あっ、うん」
心配そうに揺れている彼の瞳の中に、私の姿が映っていた。
彼に触れられている部分が、じわりと熱くなっていく。
リド「〇〇……」
心なしか、リドの頬も赤く染まっている気がした。
猫「な~~……」
その声にハッと振り向くと、猫が睨むように私達をじっと見ていた。
〇〇「……!」
リド「あっ、あいつ……っ!」
リドが追いかけようとすると、猫はまるでからかうように身をひるがえし、屋根の上へと上がっていく。
リド「くっそ~……でっぷりしてるくせに、なんであんなすばしっこいんだ!」
猫「な~」
高い屋根の上から、猫は私達を見下ろして野太い声を上げた。
リド「くそっ! こうなったら……」
リドが腕まくりをして屋根の上へと登ろうとすると……
??「いたぞ!」
バタバタと騒がしい足音が近づいてくる。
振り向くと、そこには複数の男の人達がいた。
その中にいたのは……
(この人は……)
―――――
貿易商の男性『どうぞ、以後お見知りおきを』
―――――
(カランさんと一緒にいた、貿易商の男の人……)
貿易商の男性は、お付きの人と思われる人々を引き連れていた。
男性達は皆、なぜか険しい顔をしている。
(何……この雰囲気)
張り詰めた空気に戸惑っていると、リドが彼らに鋭い視線を向ける。
リド「あんたら……」
貿易商の男性「……捕獲しろ!」
貿易商の男性の声を合図に、お付きの人達は懐から銃を取り出した。
(銃……!?)
リド「おいっ!!」
私達にかまわず、皆がいっせいに銃を構える。
リド「っ……!」
リドが、私の耳を塞ぐように強く抱きしめる。
鈍い銃声が響き、私はリドの胸に顔を埋めた…-。