今日も街の人達の依頼をこなそうと、リドと城の外へ向かっていると…-。
リド「ん?」
リドのお兄さんであるカランさんが、身なりのいい男性と共に廊下の向かいから歩いてきた。
カラン「リド、それに〇〇様も」
私達に気づいたカランさんが、にこやかに歩み寄ってくる。
けれどすぐに、リドの服装をまじまじと見て眉をひそめた。
カラン「……リド。その格好はなんだ」
リド「深くは追及しないでくれ」
きっぱりと答えるリドに、カランさんが深いため息を吐く。
カラン「まったく、〇〇様まで付き合わせて……」
〇〇「いえ。私が好きでやっているので」
すると、カランさんの隣にいる男性が声を出して笑った。
男性「まあまあ、よいではないですか。国が平和な証拠ですよ」
リド「そちらは?」
カラン「貿易商の方だ。世界中を回って商いをしておられる」
貿易商の男性「どうぞ、以後お見知りおきを」
その男性は、交易に関する相談で城を訪れているとのことだった。
リド「よろしくお願いします! ……ん?」
挨拶を交わしたリドの視線が、ふと男性の手元に移る。
私も思わず男性の手元を覗き込もうとしたけれど……
カラン「リド、あまり〇〇様にご迷惑をかけないように」
カランさんの声が聞こえ、反射的に顔を上げた。
リド「わかってるって!」
カランさんは別れの挨拶の代わりに私に微笑むと、男性と共に立ち去っていった。
リド「……あの人もやられたのかな」
〇〇「え?」
リド「いやさ……」
言いかけたリドが、ハッと目を見開く。
リド「っと! いけねえ。行こうぜ!待ち合わせに遅れちまう」
私もそれ以上は気に留めず、彼と依頼主の元へ向かったのだった…-。
…
……
そして街での依頼を終え、城に戻ると…-。
リド「……なんだ?」
もう日もすっかり落ちているのに、城内がやけに騒がしい。
カラン「検問を敷け! すぐにだ!」
カランさんの鋭い声が場内に飛んでいる。
(いったい何が……?)
カラン「リド、〇〇様……」
リド「兄貴、何があったんだ?」
私達が駆け寄ると、カランさんは周囲を警戒するように声をひそめた。
カラン「保管していた城の宝石が、何者かに盗まれた」
〇〇「……!」
告げられた事実に息を呑む。
カラン「まだそう遠くへは行っていないはずなんだが……なんという失態だ」
リド「城内に怪しい奴は?」
カラン「……外からの客人は城に留め、部屋や所持品などを隈なく調べさせてもらっている。 だが、全く見つけられない。とんだ失礼を働いてしまっているな」
しばらく、リドは肩を落とすカランさんを見つめていたけれど……
リド「……オレが見つけてみせるよ。 オリブレイトの大事な宝石が盗まれたんだ、黙っちゃいられねえ」
カラン「だが……」
リド「探偵としてのオレの腕を、なめてもらっちゃ困るぜ?」
〇〇「リド…-」
いてもたってもいられず、私も手伝いを申し出ようとすると……
リド「わかってるって。あんたも、手伝ってくれるって言うんだろ?」
〇〇「どうしてわかったの?」
リド「どうしてって……あんた、わかりやすいから。 頼りにしてるぜ? オレの助手さん」
リドは私の頭にぽんと手を乗せた後、表情を引きしめた。
リド「けど……約束しろ。絶対に無理だけはするな」
〇〇「……わかった」
いつになく真剣なその眼差しは、彼が心から私を案じてくれていることを教えてくれていた…-。