机の上に置かれた懐中時計が、コチコチと小気味よい音を立てている…-。
リド「あんたなあ……」
リドは呆れたようにため息を吐いて、私の顔を覗き込んだ。
リド「……他人事だと思ってるだろ」
〇〇「そんなことないよ」
リド「本当かあ?」
顎に手をあてて考える彼に、思わず笑みを浮かべてしまう。
不意に、リドの目が何かを企むようにいたずらな輝きを帯びる。
リド「そうだ! あんたも手伝ってくれよ!」
〇〇「え?」
驚いて返事ができずにいる私に、リドが言葉を継ぐ。
リド「オレの助手ってのは、どうだ?」
(私が探偵の助手を……)
助手という言葉の響きが、楽しい何かを予感させる。
〇〇「うん。私でいいなら」
リド「よっし、決まりだな! そうだ、今からちょうど依頼主と会うんだよ」
リドはそう言って私の肩に手を置き、顔を覗き込む。
リド「しっかりサポート頼むぜ、〇〇君?」
〇〇「うん……じゃなくて、はい!」
リド「ハハッ。あんた相変わらず素直だな」
〇〇「そうかな……?」
リド「ま、そういうところが好きなんだけど」
〇〇「えっ……」
『好き』という言葉に反応して、胸がドキリと音を立てる。
けれど、それは彼も同じだったようで……
リド「っ……! ほら、行くぞ!」
リドは赤くなった顔を私から逸らし、背を向けて歩き出したのだった…-。
…
……
私とリドは街へ出て、依頼主の元へと向かった。
リド「依頼主は……あそこだな」
見ると、白い髭を生やしたご老人が一人、ベンチに腰を下ろしている。
リド「よっ! じっちゃん!」
手を上げて挨拶しながら、リドはご老人の近くまで歩み寄った。
老人「おお……まさか、本当に王子が来てくださるなんて…―」
目を見開いて驚くご老人に、リドは屈託なく笑いかけた。
リド「依頼されたんだ、来ないわけねえだろ? 頼まれたモン、見つけてきたぜ!」
リドがご老人に得意げに酒瓶を差し出す。
緑色の一升瓶の中で、きらきらと金の粉が舞っていた。
老人「まさしくこれは、ワシが求めていた秘蔵の宝石酒……!!」
声を震わせて喜ぶご老人を見て、リドが嬉しそうに目を細める。
リド「行きつけの店のマスターに聞いたらさ、取り寄せてくれたんだ!」
老人「おお、おお……これが飲めたら、もう思い残すことはありません」
リド「いや! 元気でいてくれなきゃ困るぜ!?」
老人「なんとお優しい……ありがとうございます、リド王子!」
リド「どーいたしまして! 今度よかったら、オレにも飲ませてくれよな」
飾らない人懐っこい笑顔に、ご老人もつられるように笑っている。
(こうやって街の皆と親しくなれるのって、リドのいいところだな)
温かくなる心を感じながら、二人の様子を見ていると……
リド「ん?」
不意に彼の視線が私の足元へと注がれた。
リド「それ……何?」
〇〇「え?」
猫「な~」
いつの間にか私の足元に、ふくよかな猫がどすんと座っていた…-。