第3話 ひと時を永遠に

星々の光が真っ白な雪に吸い込まれていく…―。

歩いてみると、この星は本当に小さな星だった。

○○「見てください、雪だるまですよ」

切り株の上に小さな雪だるまを見つけ、足を止める。

シュテル「ゆきだるま?」

○○「雪だるま知らないんですか?こうやって…―」

と、一つ作ってみせると、シュテルさんは冷たくそれを見下ろした。

シュテル「何だその不格好なものは」

○○「ぶ、不格好って……!じゃあ、シュテルさんも作ってみてください」

少し拗ねてそう言うと、シュテルさんは優雅にしゃがみ込み、あっという間に完璧な丸を二つ作る。

(私よりずっと上手……)

私が作ったものを手本に顔を作ったはずなのに、どう見ても、それよりずっと可愛らしい雪だるまができあがった。

シュテル「簡単だ。君は案外不器用なんだな」

(……!)

○○「そ、そんなことはないですよ」

シュテル「そうか?丸の形がなんだかいびつだけど」

シュテルさんは、どこか面白そうに私の作った雪だるまを眺めている。

恥ずかしさに目をそらすと、シュテルさんは、私の手から不格好な雪だるまを取り上げる。

○○「?」

そうして、代わりに綺麗な雪だるまを私の手の上に置き、再び歩き始めた。

(交換してくれるってことかな……?)

○○「いいんですか?」

シュテル「どうせすぐに溶ける」

○○「ありがとうございます」

何だか嬉しくなって、止めようもなく笑顔が溢れる。

そんな私を見て、シュテルさんが嬉しそうに笑った。

○○「……っ」

(また、あの笑顔だ……)

胸に手を当て、息を吸った時……

シュテル「……いた。あそこだ」

シュテルさんが雪の彼方を指し示した。

(女の子?)

近寄ると、小さな女の子が一人、雪の中にしゃがみ込んでいる。

シュテル「どうした」

シュテルさんが話しかけると、女の子は怯えたように顔を上げた。

女の子「おにいちゃん、だれ?」

小さなうさぎが三匹、慌てて女の子の胸元に飛び込む。

シュテルさんは雪の中に膝をついて目線を合わせ、女の子に優しく話しかけた。

シュテル「怖がらなくていい。僕はメテオベール王家の王子、シュテルだ。願いを叶えにきた」

女の子「あの……おねがいをかなえてくれる、おうじさま?」

シュテル「ああ」

女の子は、途端に瞳をキラキラと輝かせた。

女の子「あのね、遠くの国におひっこししないといけないの。だからね、わたしのおねがいは、この子たちのことなの」

コートの胸元から顔を出している3匹のうさぎ達をシュテルさんに見せる。

女の子「つれていけないんだって。わたしがいなくなったら、この子たち、雪にこごえちゃうから」

女の子の瞳から、大粒の涙がこぼれた。

女の子「おうじさま……」

シュテル「……」

シュテルさんは、ポンと女の子の頭に手を置くと、流れ星を生み出す。

そうして願いを唱えると、胸元の砂時計が輝き…―。

女の子「わあ……!」

目映い光が消えた後、私達の足下には花畑が広がっていた。

遠くで雪が降っているのが見えるけれど、この場所だけは不思議と暖かい。

○○「綺麗……」

うさぎ達が女の子の胸元から飛び出し、嬉しそうに花畑を飛び跳ねた。

シュテル「……これで、安心できるか?」

女の子「うん!ありがとう」

シュテル「ああ」

女の子が声を出して笑い、楽しそうにうさぎ達を追いかける。

その後ろ姿を見て、シュテルさんは、この上なく優しい顔で笑った。

(優しい人……人の笑顔が、本当に嬉しいんだ)

シュテルさんが笑うと、心が暖かく、そして苦しくなる……

シュテル「……忘れていた」

その声にふと顔を上げると、

彼は、足元で溶けかけている不格好な雪だるまを見つめていた。

(急に暖かくなったから、溶けてしまったんだ……)

○○「でも、こっちは無事ですよ」

シュテルさんが作った綺麗な雪だるまを差し出すと、彼は静かに首を振る。

シュテル「……いい」

そう言って私の手から雪だるまを取ると、そっと溶けかけの雪だるまの隣に置いた。

○○「??」

シュテルさんは、雪だるまをしばらく見つめ、そっと瞳を閉じる。

しばらくして目を開けると、そのまま雪だるまから背を向けてしまった。

シュテル「行こう」

○○「え?でも、雪だるまは……?」

シュテル「いい」

そうして、遠くでうさぎと駆け回る女の子のことも、雪だるまと同じように見つめ…―。

シュテル「消えないように憶えておくから……いいんだ」

○○「え……?」

彼の言葉が夜空に吸い込まれ、何故だか胸が騒ぐ。

もう一度尋ねる代わりに、風が運んできた花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

○○「……いい香りですね」

黙り込んでしまったシュテルさんに、そう言って笑ってみせる。

シュテル「花が好きか?」

○○「はい」

シュテル「枯れてしまうのに?」

○○「それでも、大好きです」

シュテル「……そうか」

シュテルさんは、何故だか苦しそうに目を細めた。

シュテル「さあ、もう本当に行かないと」

○○「え?でも、あの子に挨拶を」

シュテル「流れ星が来てしまったから」

○○「……はい」

シュテルさんは、決して後ろを振り向かなかった。

その後ろ姿を見つめ、私は何故だか言いようもなく切ない気持ちになったのだった…―。

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