木の葉の隙間に、沈みかけの夕陽がきらめいている…-。
ゼロ「もう、うんざりだ」
〇〇「ゼロさん……」
(そんなに大変な状況だったなんて)
(かける言葉が見つからない……)
肩を落としたゼロさんに、私はそっと手を伸ばした。
髪に手が触れそうになった直後…-。
ゼロ「……」
ゼロさんが顔を上げ、私たちはしばし見つめあう。
ゼロさんが、ゆっくりと瞬きをした。
ゼロ「こういう時は、どんな会話をすればいい?」
〇〇「え、えっと……」
(なんだか、恥ずかしくなってきちゃった……)
ゼロ「また、空の話でもするのか?」
〇〇「え……」
ゼロさんがふっと吹き出して……私たちは、声もなく笑い合った。
ゼロ「やはり、難しいな」
ゼロさんが、黒いフレームの眼鏡をかけ直しながらつぶやいた。
〇〇「でも、さっきゼロさん、自分のこと話してくれました。 襲われて、怖かった……それに。 ご兄弟で争うなんて、何て言葉をかけていいかわからなかったけど。 ゼロさんのこと、少しだけ知ることができました」
気持ちがスラスラと唇を伝い、私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。
ゼロ「……それで? 仲良くなれそうか?」
〇〇「え?」
ゼロ「俺と会話して、仲良くなりたいんだろ?」
彼は、そう言って、ゆっくりと顔を近づけてきて……
〇〇「……っ」
私は、恥じらいにぎゅっと瞳を閉じた。
クスクスと笑う声に続き、肩にかすかな重みを感じる。
ゆっくりとまつ毛をあげると、ゼロさんが私の肩に頬を載せていた。
ゼロ「君の法則を、一つ見つけた」
彼の言葉も耳に入らないほどに、胸の鼓動が大きく音を立てる。
ゼロ「俺が顔を近づけると顔が赤くなる」
〇〇「あ、あの、ゼロさん……っ」
ゼロ「何?」
肩に頬を置いたまま、彼は私を見上げる。
眼鏡越しの彼の瞳が、悪戯っぽく揺れた。
〇〇「……っ」
(そんな目で見られると……)
私は、言葉を続けることができなくなってしまった。
ゼロ「……いつか。 こうやって、どんどん君を知っていって。 君を喜ばせる法則をたくさん見つけるっていうのも面白そうだ。 統計じゃなくて、君だけの法則を……」
彼の指が、私の頬にそっと触れる。
夕陽が染めあげた美しい世界を眺めながら、私は彼の言葉を思い出した。
―――――
ゼロ『いま空の色がこんな風に鮮やかに染まっているのは……』
―――――
彼の顔が近づいてくる。
私は静かに瞳を閉じた…-。
おわり。