城の中庭で、襲いかかってきた男達を追い払った後…-。
〇〇「今の人達は……?」
ゼロ「ああ、うちの国は王子がたくさんいてね。 側近達が、跡目争いをしているんだ。 もう、うんざりだよ」
(本当に、もう……)
肩の傷以上に、胸の奥がずきずきと痛む。
〇〇「ゼロさん……」
ふと顔を上げると、こちらへと手を伸ばす〇〇と目が合う。
(……つまらない話を聞かせてしまったな)
俺は心の中でそう自嘲した後、気持ちを切り替えるためにゆっくりとまばたきをし……
ゼロ「こういう時は、どんな会話をすればいい?」
〇〇「え、えっと……」
ゼロ「また、空の話でもするのか?」
〇〇「え……」
ふっと吹き出した俺を見て、〇〇も笑みを浮かべる。
ゼロ「やはり、難しいな」
〇〇「でも、さっきゼロさん、自分のこと話してくれました」
(え……?)
眼鏡をかけ直した俺は、彼女の方へと向き直った。
〇〇「襲われて、怖かった……それに。 ご兄弟で争うなんて、なんて言葉をかけていいのかわからなかったけど。 ゼロさんのこと、少しだけ知ることができました」
(俺を……?)
(……そうか。まさか、そんなふうに言ってくれるなんてな)
(君は本当に予測不能だ。だが、だからこそ……)
ゼロ「……それで? 仲良くなれそうか?」
〇〇「え?」
ゼロ「俺と会話して、仲良くなりたいんだろう?」
(俺も、君と仲良くなって……)
(予測不能な君のことを、もっともっと知りたい)
ゆっくりと、〇〇に顔を近づける。
すると彼女は、強く瞳を閉じて……
(……なるほど、理解した)
俺は笑いながら彼女の肩に頭を乗せる。
ゼロ「君の法則を、一つ見つけた。 俺が顔を近づけると顔が赤くなる」
〇〇「あ、あの、ゼロさん……っ」
ゼロ「何?」
肩に頭を置いたまま、俺は〇〇を見上げた。
〇〇「……っ」
(どうやら、こうして至近距離で見つめられるとさらに赤くなるようだな)
(それに、鼓動も……)
触れた部分から、早鐘のように鳴る鼓動が伝わってくる。
(だが……一度の検証では、当然法則とは言えない)
(だから……)
ゼロ「……いつか。 こうやって、どんどん君を知っていって。 君を喜ばせる法則をたくさん見つけるっていうのも面白そうだ。 統計じゃなくて、君だけの法則を……」
俺はそっと、〇〇の頬に手を伸ばす。
そうして、静かに口づけた後…-。
ゼロ「……また、新たな君を知った。 頬に手を添えて顔を近づけると…-」
〇〇「……っ、ゼロさん!」
ゼロ「すまない、冗談だ」
耳の先まで真っ赤になる〇〇に、再び笑いが込み上げてくる。
すると……
〇〇「……私も、ゼロさんの法則を見つけました」
ゼロ「え?」
〇〇「仲良くなると、意外と意地悪です」
ゼロ「……」
〇〇の言葉に、俺は目を見開く。
だが、わずかな間の後……
ゼロ「そうか。言われてみれば、そうかもしれないな」
俺達は再び静かに笑い合う。
そして……
ゼロ「俺はもっともっと、君を知りたい。 同時に、俺のことも知って欲しい。 そうやって時を重ねていって……二人だけの法則を、たくさん見つけられればいいと思う」
俺は〇〇の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近づける。
すると彼女は、先ほどと同じように静かにまつ毛を伏せて……
(……これから先、何があろうとも)
(この法則を知るのは俺だけだ)
心の中でそう強く思いながら、俺は彼女に唇を寄せたのだった…-。
おわり。