藍色の空に浮かぶ星々が、淡い光を放っている…-。
〇〇「どれにするか……迷ってしまいますね」
アルタイル「そうだな。こうもいろいろあると…-」
温泉を選んでいるうちに日は落ちて、いつの間にか夜になっていた。
ひんやりとした風が頬を撫で、冷たくなった指先をこすり合わせていると……
アルタイル「……少し待っていてくれないか? すぐに戻る」
彼は通りの向こうに見える売店へと走っていった…-。
…
……
しばらくして、二つのコップを持ったアルタイルさんが息を吐きながら戻ってきた。
アルタイル「これで少しは温まるといいんだが」
彼は、私の手に一つコップを握らせてくれる。
〇〇「これは……?」
アルタイル「ハチミツ入りの生姜紅茶だ」
〇〇「! ありがとうございます」
(……温かい)
温かな湯気とふわりと香る生姜の香りに誘われるように、ひと口飲んでみると……
〇〇「……おいしい」
生姜のほどよい刺激とハチミツの甘さに、体も心も温められた気がした。
アルタイル「ここに座ろう。そこじゃ、ゆっくり飲めないだろう?」
彼は椅子に私を座らせると、その横に腰を下ろした。
アルタイル「……夜空を見上げながらお茶を飲む、か。 俺の国でも、農作業の後にこうすることがあるが……それとはまた違った、温かな感覚だ」
〇〇「そうなんですね……」
肩を寄せ合い、紅茶で身も心も温まっていると……
男性1「さっきの温泉、ふわーって体が浮かんでびっくりしたぜ!」
男性2「お前のでかい体でも浮いちまうんだからな」
風呂上りなのか、男性達が興奮気味に話しながら歩いてくる。
彼らは笑い合い、温泉を満喫している様子だった。
〇〇「ふふ、楽しそうですね」
アルタイル「なんだか、勇利達が来た時のことを思い出すな。 よくわからない温泉に入って、遊んで、騒いで……普段あんなことする機会はめったにないから。 短い間にたくさんのことをして、体が疲れてもおかしくないはずなのに……。 すごく気分がいい」
微笑むアルタイルさんの横顔は、いつになく安らいだ表情をしている。
〇〇「あんなに楽しそうなアルタイルさん、初めて見たかもしれません」
アルタイル「そうか?」
彼は照れくさそうに頭を掻きながら笑う。
(普段は公務で忙しそうだから、楽しく過ごせたならよかった)
ほっと胸を撫で下ろしていると、今度は少しはしゃいだ様子の女性達が目の前を通り過ぎた。
女性1「あっちの温泉は、癒しの温泉だって!」
女性2「足湯だからすぐに入れそうだね。行ってみようか」
彼女達が歩いて行く先に、『足湯』と記された立て札が見える。
(足湯なら、気兼ねなく一緒に入れるけど)
熱を帯びた彼の眼差しを思い出すと、足湯へ誘うことがなんだかはばかられる。
すると…-。
アルタイル「〇〇」
そんな私の胸の内を察したのか、アルタイルさんに優しい眼差しを向けられた。
アルタイル「悩ませてすまない。その……俺は、お前と一緒ならなんの温泉でも構わないんだ」
あやすように頭を撫でられて、胸がきゅっと絞られる。
アルタイル「俺達も行ってみるか」
〇〇「……はい!」
アルタイルさんにそっと手を取られ、椅子から立ち上がって歩き出す。
彼の優しさが、胸に温かく沁みていった…-。