太陽最終話 癒しの時間

茶葉の香りと温かい湯気が立ち上がる。

私はたっぷりお茶の注がれた湯呑みをお盆にのせて、こぼさないようにそっと窓際まで歩みを進めた。

〇〇「フロストさん、お茶が入りましたよ。 ……フロストさん?」

フロスト「……」

見ると、フロストさんはソファに座ったまま目を閉じ、寝入ってしまっていた。

お盆を傍らの机に置いて、フロストさんの顔を覗き込む。

〇〇「フロストさん……」

フロスト「……」

声をかけると、フロストさんの銀色のまつ毛がゆっくりと持ち上がり、深紅の瞳が私を捉えた。

〇〇「休むのなら、お布団で休んだ方が…―」

言い終わらないうちに、不意に彼に手を取られる。

(え……?)

気づけば私は、フロストさんの隣に座らされていて…-。

〇〇「!? あの、どうかしましたか……?」

フロスト「少しの間でいい」

そう言って、フロストさんは私の肩にとんと顔を預けた。

フロスト「具合が悪い時は言えと、お前が言ったんだろう? お前に触れていると何より安らぐんだ」

(そんな、甘えるみたいに言われたら……)

フロストさんは私の肩にもたれながら、本格的な眠りに入ろうとしていた。

彼から甘い香りが漂い、私の胸にまでふわりと広がっていく。

(……香水かな? すごく良い匂いがする)

(それに、銀色の髪がさらさらして、くすぐったい)

寝息を立て始めたフロストさんの顔を間近に見つめながら、鼓動が大きくなるのを感じていた…-。

……

しばらくすると日も完全に落ち、窓の外は暗闇が立ち込めていた。

フロスト「……だいぶ良くなったな」

いつの間にか目を覚ましたらしいフロストさんが、しっかりとした足取りで立ち上がる。

(……もうちょっとこうしていたかった気もするけど)

そんなことを思いながらも、やっぱり心配は消えず……私は彼に問いかけた。

〇〇「大丈夫ですか?」

フロストさんの口元に、余裕のある笑みが浮かべられる。

フロスト「ああ。甘酒も温泉もいいが、やはりお前の傍にいるのが一番の薬のようだ」

〇〇「もう……ちゃんと休まないと」

頬に熱を感じつつなんとかそう答えるけれど、フロストさんは少しも意に介していない様子で…-。

フロスト「ここは、貸し切りの露天風呂があるのだろう? 俺の体調を見越しての招待ならば、その湯に浸かれば不調も治るということだな」

〇〇「はい。きっと用意されているはずです」

フロスト「ならば一緒に入るか」

〇〇「え……!?」

突然の申し出に、思わず大きな声を出してしまう。

だけど、フロストさんはさも当然といった様子で私を見やった。

フロスト「俺のことが心配なら……俺の近くにいればいい」

〇〇「それは…-」

フロスト「嫌なのか?」

そう聞かれれば、嫌と答えられるはずもなく……

(やっぱり、フロストさんには敵わないな)

赤くなった顔を見られたくなくて、私はそっと彼から目を逸らしたのだった…-。

……

緊張で固まった足をなんとか動かして、温泉に足を踏み入れる。

(どうしよう……)

視線を彷徨わせていると、すぐ傍にフロストさんの気配を感じて…-。

フロスト「どうだ?」

その声に顔を上げると、温泉の周囲に雪が舞っているのが見えた。

フロスト「簡単なものだが、雪見風呂を作ってみた」

(綺麗……)

その光景もさることながら、彼の白い肌がお湯に濡れ、夜空の下で輝いて見える。

銀髪からも雫が滴り、匂い立つような色気を醸し出していて…-。

〇〇「フロストさん、この雪は…-」

フロスト「俺の魔法だ。見せてやると言っただろう?」

自信に満ちたその表情すら艶を帯びていて、目が離せなくなる。

(体が熱い……)

お湯に入る前からのぼせそうになり、私は慌てて口を開いた。

〇〇「でも、また具合が悪くなったら……」

フロスト「この程度なら問題はない。お前こそ、いつまでもそこにいたら冷えるぞ。こちらへ来い」

彼の視線に促されるまま、熱い湯船の中に腰を下ろす。

下から見上げる雪は、湯気の白さも相まってさらに幻想的に見えた。

〇〇「素敵ですね……ありがとうございます」

心からの言葉に、フロストさんが満足そうに頷く。

フロスト「お前の言う通り……温泉に浸かりながら眺める雪もいいものだ。 だが、俺にとってはお前と一緒だということがやはり一番重要だな」

〇〇「……!」

フロスト「その表情が何よりの癒しだ」

愛おしそうに見つめられ、これ以上ないほどに胸が大きく音を立てる。

(私……結局フロストさんに楽しませてもらってばっかりだ)

申し訳なさを感じてうつむくと、フロストさんの腕が伸びてきた。

フロスト「もっと近くに来い」

肩を抱かれ、素肌同士が触れ合って…-。

フロスト「ああ……やはりお前の隣は心地がいい」

耳元で囁かれると、甘い痺れが体中に広がっていく。

(私といることで……フロストさんが癒されるなら)

恥じらいを抑え込んで、私はフロストさんに体を寄せる。

フロスト「〇〇……」

はらはらと舞う雪が湯気に溶け入る中、私達はどちらからともなく唇を重ね合ったのだった…-。

おわり。

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