トルマリに手を引かれ、パーティホールを抜け出した後……
彼は庭園に咲く色とりどりの花で、ティアラをかわいくアレンジしてくれた。
(本当に嬉しいな……)
私は頭上のティアラにそっと手を伸ばしながら、トルマリの優しさを噛みしめる。
けれども、次の瞬間…-。
トルマリ「う~ん……」
〇〇「……? あ、あの、トルマリ。急にどうしたの?」
私を見つめて考え込むトルマリに、おずおずと尋ねる。
トルマリ「うん。このままでもすっごくかわいいんだけど、もう一手間加えられそうな気がして……。 ……そうだ! このティアラに合わせて髪を結い直したらもっとかわいいかも!」
そう言ってトルマリは私の頭からそっとティアラを外し、まとめていた髪を手早く解いてしまう。
〇〇「ト、トルマリ? あの……」
トルマリ「ああ、動かないで。すぐに終わるから」
トルマリは器用に編み込みを作り、ティアラと同じように花を飾ってゆく。
そうして、しばらくの後…-。
トルマリ「よし、できた!」
トルマリの手によってアレンジされた髪の上に、再びティアラが乗せられ、彼は私を上から下までじっくりと見つめた後、満足げな笑みを浮かべて口を開く。
トルマリ「さ、戻ろう。〇〇のかわいい姿を、皆に見せなきゃ」
〇〇「えっ……!?」
トルマリは待ちきれないとばかりに困惑する私の手を引いて歩き始める。
そして、二人でパーティホールに戻った瞬間……
トルマリ「皆、ちゅーもーく!」
〇〇「……!」
トルマリが大きな声を出して、ホール中の人々の視線を集めた。
〇〇「あ、あの、トルマリ……」
トルマリ「大丈夫、ぼくに任せて」
皆の視線が集まったことを確認すると、トルマリは私の手を引いたままステージへと上がる。
(トルマリ、何を考えてるんだろう……)
(こんなふうにステージに上がったりしたら、さっきみたいに……)
貴婦人1「あら。あの子、ティアラを贈呈された子じゃないかしら?」
貴婦人2「え……? まあ、本当……」
(……っ!)
囁きが耳に入った瞬間、体に小さな震えが走り、ステージを下りたい気持ちでいっぱいになる。
けれども……
貴婦人2「あの子……先ほどと少し雰囲気が違わない?」
貴婦人3「かわいらしいわ。ティアラがよく似合ってる」
(え……?)
トルマリ「かわいいでしょ? ぼくの〇〇なんだから当たり前だよ」
トルマリはホールの人々に向かって得意げに微笑む。
そうして、私の腕に自分の腕を絡ませて、体を強く引き寄せた後……
トルマリ「改めて、〇〇に拍手を!」
トルマリが高らかにそう言った瞬間、ホール中から拍手が沸き上がる。
けれども私は、恥じらいと戸惑いから思わずうつむいてしまった。
トルマリ「〇〇……。 ……自信を持って。きみはかわいいんだから」
〇〇「……!」
耳元でそっと囁かれた瞬間、背中を甘い痺れが走り……
少し遅れて、胸の奥から勇気が湧いてくる。
(……うん。せっかくトルマリがかわいくしてくれたんだし)
(いつまでもうつむいてたら駄目だよね)
私は意を決して顔を上げ、トルマリに寄り添いながらホールの人々に笑顔を向ける。
その瞬間、私達はさらに大きな拍手に包まれたのだった…-。
…
……
私達がステージを下りてから、数分後…-。
楽師「……皆様。次は本日最後の曲となります。楽師一同、心を込めて演奏いたしますので、どうぞ最後まで存分にお楽しみください」
トルマリ「……そっか、もう終わっちゃうんだね。 ……」
〇〇「トルマリ……?」
目の前で急に黙り込んでしまった彼の顔を、そっと覗き込む。
すると……
トルマリ「〇〇、ぼくと一緒に踊ってくれませんか?」
トルマリは私の前で跪くとうやうやしくお辞儀をし、少しの間の後に顔を上げてこちらを見つめる。
(……っ)
彼のそのまっすぐな瞳に、胸が強く締めつけられ……
〇〇「……はい」
私は短く返事をした後、トルマリの手を取った…-。
…
……
トルマリのエスコートでパーティホールの中央までやってきた私は、彼と向き合いお互いの手を取り合う。
〇〇「ダンス、あまり上手じゃないけど……」
トルマリ「大丈夫。ぼくに合わせて」
〇〇「う、うん……」
トルマリに促され、曲に合わせてステップを踏む。
けれど……
トルマリ「……っ!」
私が足を踏んでしまった瞬間、トルマリは痛みに顔をしかめる。
〇〇「ご、ごめん、アルマリ!」
トルマリ「ううん、謝らないで。それに……。 上手く踊ろうなんて思わなくていいよ。楽しもう、〇〇!」
〇〇「う、うん!」
トルマリからいつもの無邪気な笑顔を向けられた時、私の緊張は一気にほぐれ……
いつしか私達は満面の笑みを浮かべながらダンスを楽しんでいた。
貴族1「あの子達、かわいいな」
貴婦人4「本当、楽しそうね」
パーティホールの至るところから、私達を称賛する声が聞こえる。
そうして、演奏が終わった後……
〇〇「あ……」
私とトルマリは、再び大きな拍手に包まれていた。
トルマリ「皆、ありがとう!」
トルマリはそう言いながらホールの人々に向かって手を振った後、おもむろに私の方へと向き直る。
トルマリ「〇〇、今日は楽しかったね!」
いつもよりどこか男らしく微笑むトルマリに、胸が大きく高鳴った。
けれども、どうにか気持ちを落ち着けた後…-。
〇〇「うん!」
私は彼への想いと感謝を込め、微笑みながら大きく返事をした。
(……今日のことは、一生忘れないだろうな)
ホールではなおも惜しみない拍手が沸き起こっている。
そんな中、私は隣に立つ素敵な王子様にそっと体を寄せ……
二人で寄り添いながら、拍手が止むその時まで手を振り続けたのだった…-。
おわり。