〇〇の頭上で、ティアラが神々しいほどの輝きを放っている。
トルマリ「綺麗……」
ぼくはそれを、感嘆の声を漏らしながら見つめていた。
主催者「僭越ながらパーティの間、ホールの様子を別室にて拝見させていただきました。 そして、熟考の結果……。 ティアラは〇〇様にお贈りしたいと思います」
ぼくは喉から手が出るほど欲しがっていたティアラは、〇〇に贈呈された。
(おめでとう)
ぼくは心からの祝福を送りながら、〇〇に笑いかける。
トルマリ「〇〇、すごく似合ってるよ」
〇〇「あ、ありがとう。でも……」
〇〇が、申し訳なさそうに視線を落とす。
トルマリ「……? どうしたの?」
〇〇「うん。その……やっぱりこんなに素敵なティアラ、私には似合わないというか。 絶対、トルマリの方が似合うだろうなって……」
(え……?)
(……そっか。きみは本当に優しいね)
トルマリ「そんなことないよ! 〇〇、すっごく素敵だよ!」
ぼくは彼女をまっすぐに見つめ、正直な思いを告げた。
けれど、その時……
貴婦人1「見て、隣の子の方が美しいわ」
(えっ?)
会場のどこかから、こそこそと話す声が聞こえた。
貴婦人2「どうしてあの子が選ばれたのかしら?」
(もしかして、〇〇のこと?)
貴婦人3「ティアラも隣の子の方が似合うのに……」
(そんな……!)
慌てて〇〇を見ると、彼女は悲しそうにうなだれていた。
(〇〇……)
(……本当はぼくだって、ティアラが欲しかった)
(でも……)
胸の中に、怒りや悲しみが入り混じった強い気持ちが込み上げてきて……
(絶対に、〇〇の方が似合ってる)
(ぼくだけじゃない。この会場の、誰よりも……!)
トルマリ「……〇〇、ちょっとこっちへきて」
〇〇「えっ……? ト、トルマリ? いきなりどうし…-」
トルマリ「いいから!」
〇〇の手を引いてぼくはパーティホールを後にした。
…
……
〇〇「わぁ……綺麗……」
色とりどりの花が咲き誇る庭園を見て、〇〇が声を上げる。
トルマリ「どれがかわいいかな~」
ぼくは庭園へと駆け出し、足元に咲く花々を見渡した。
トルマリ「……うん、あの辺のがいいかも!」
控えめに咲く小さな花を、指先で摘んでいく。
(君の魅力を、もっともっと伝えられるように……)
トルマリ「〇〇、ティアラ貸して」
〇〇「えっ? あ……うん」
彼女からティアラを受け取り、摘んだ花々をあしらっていく。
(うん、思った通り)
ぼくの手の中で、ティアラはより一層かわいさを増していった。
(どうして〇〇が選ばれたのかだなんて……そんなこと、もう絶対に言わせない)
(〇〇は、世界一かわいいんだから……!)
そう思うほどに、花を飾る指先にも熱がこもってくる。
そして……
トルマリ「できた~! ね、〇〇。どう? これかわいくない?」
花をあしらったティアラを、夜空に掲げる。
〇〇「う、うん! 本当に、すごくかわいい……!」
彼女はそれを見て、目をきらきらと輝かせた。
トルマリ「ふふっ、でしょ?」
〇〇の頭に、そっとティアラを乗せる。
すると彼女は頬を赤らめ、気恥ずかしそうにぼくを見つめた。
トルマリ「うん、やっぱり〇〇はティアラが似合う」
〇〇「トルマリ……」
トルマリ「笑って、〇〇」
ぼくが笑うと、彼女もつられるように満面の笑みを浮かべた。
トルマリ「〇〇はかわいいね」
素直な言葉が口からこぼれ落ちると、〇〇は困ったように、でも嬉しそうにはにかむ。
(その顔も、本当にかわいい)
(だけど……)
トルマリ「う~ん……」
〇〇「……? あ、あの、トルマリ。急にどうしたの?」
トルマリ「うん。このままでもすっごくかわいいんだけど。もうひと手間加えられそうな気がして……」
(ぼくが、もっともっときみの魅力を引き出したいな)
そう思いながらも、そっと〇〇の髪に触れる。
(世界一かわいい、ぼくのお姫様……)
ぼくは心の中で静かにつぶやいた後目の前の彼女の髪を優しく解いたのだった…-。