現れた狼達は、興奮状態で牙を剥き出しにして、今にも飛びかかって来そうだった。
(怖い……!)
後ずさった瞬間、狼達がいっせいに襲い掛かって来る。
ぎゅっと瞳を閉じた、その時…-。
ヴィム「やめろ!」
(ヴィム!!)
ヴィムの大声で、狼達はぴたりと動きを止めた。
ヴィム「出て行け……!」
ヴィムが睨みつけると、狼達は逃げるように去っていった。
安堵で、その場に座り込んでしまう。
ヴィム「……馬鹿野郎! ここで一体、何してるんだ!」
〇〇「あ、あの……」
ヴィムの剣幕に、すぐに言葉が出てこない。
ヴィム「……」
すると、ヴィムは私の頭の上にポンと手を置いた。
〇〇「……ヴィム……?」
ヴィム「俺のために、危ないことをするな」
〇〇「……ごめんなさい。 ヴィムに、これ以上傷ついて欲しくなくて」
そう言うと、ヴィムは呆れたようにため息を吐いたけれど……
ヴィム「お節介だな、あんた」
金色の瞳が、優しく細められた。
ヴィム「とりあえず、出るぞ」
〇〇「ま、待って」
腰が抜けたのか、上手く立ち上がることができずにいると…-。
ヴィム「……まったく」
次の瞬間…-。
私の体がふわりと宙に浮いた。
(えっ……)
ヴィムが私を軽々と抱きあげ、歩き始めた。
〇〇「ヴィ、ヴィム……!?」
動揺と緊張で頬が火照る。
ヴィム「世話がかかる」
けれど、私を見つめる彼の瞳はとてもやさしく感じられて……
私はそのまま、逞しい彼の体に身を預けた…-。
ヴィム「さっきは俺の仲間がすまない」
〇〇「仲間?」
ヴィム「ああ、あの狼達は、俺の仲間。友達なんだ。 狼の姿になって、自分を繋いだ時に……彼らに夜が明けるまでその鍵を預かってもらっている」
〇〇「そうだったんだ……」
(あれ? そういえば……今日は満月の日なのに)
目の前にいるヴィムは、狼姿ではない…-。
〇〇「ヴィム、狼の姿じゃない……?」
ヴィム「ああ……」
ヴィムも、不思議そうな顔をしている。
ヴィム「いつもは、もう血が騒ぎ出す頃なんだけど。 今日は、なんでだろうな。あんたが襲われてるの見て、そんなこと忘れちまった」
〇〇「えっ……?」
ヴィムが優しく微笑んで、私を抱き直す。
ヴィム「昨日、やっと……あいつが俺の夢に出てきた」
〇〇「あいつ……サラさん?」
ヴィムの悲しそうな笑顔が、月明かりに照らされる。
ヴィム「ごめんね、だってさ。謝るのはこっちなのに」
〇〇「そんなことない……サラさんは、ヴィムが傷つくことを望んでいないよ」
ヴィム「ありがとう……」
(ヴィム……)
ヴィムに見つめられ、私の胸が音を立てる。
ヴィム「あと……」
ヴィムは目を逸らすと、照れ臭そうに頭をかいた。
ヴィム「サラに……お前のこと、大切にしろって言われた」
〇〇「え……」
ヴィム「あいつも、お節介だからな」
その言葉に頬が染まり、まともにヴィムの顔を見れないでいると…-。
ヴィム「〇〇。いつもみたいに、ちゃんと俺を見ろよ」
優しく体を抱き寄せられ、こつん、と額をくっつけられた。
そのまま額が摺り寄せられ、頬に鼻を押しつけられる。
〇〇「ヴィ、ヴィム!」
ヴィム「やっと、顔を上げたな」
〇〇「あ……」
見つめ合って、それから微笑み合った。
満月の光が、ヴィムを明るく照らし出す。
きらきらと輝く金色の瞳は、もう過去の哀しみを映し出してはいなかった…-。
おわり。