見えない力に体の自由を奪われた私は、操られるままに真っ赤なリンゴを食べようとしていた…-。
プリトヴェン「〇〇!」
異変を察知してくれたプリトヴェンさんが力強く私の両腕を捉えると、リンゴは床へと転がっていく。
プリトヴェン「俺のことがわかるか?」
(プリトヴェンさん……!)
声を出したいのに、なぜか思うように言葉が紡げない。
(どうして……?)
プリトヴェン「しゃべれないのか?」
テーブルに置かれた他のリンゴが視界に入ると、またしても食べたいという衝動が湧いてきて……
彼の腕から逃れようと身をよじってしまう。
(どうしよう……体が言うことを聞かない)
プリトヴェン「何かに操られて……まさか」
(……助けて)
言い知れぬ恐怖感に襲われた瞬間……
覚悟を決めたように大きく息を吸って、プリトヴェンさんが私の腰に腕を回した。
プリトヴェン「……っ。 責任は、ちゃんと取るから」
ぐっと腰を引き寄せられたかと思うと、私の唇に彼の唇が重ねられる。
〇〇「……!」
驚きで心臓が跳ねるけれど、唇から伝わる温もりから穏やかな気持ちが広がって…-。
(これって……)
唇が離れると同時に体がすっと軽くなり、不自由な感覚が消え去っていく。
〇〇「……プリトヴェンさん」
(しゃべれる……)
プリトヴェン「……〇〇」
強張った腕の力を抜いた私に、彼は安堵の表情を浮かべる。
ゆっくりと私を抱きしめていた腕の力が緩められた。
(なんだったんだろう……私が私じゃないみたいだった)
急に力が抜けたように、私もプリトヴェンさんもその場に座り込む。
プリトヴェン「……大丈夫か?」
彼は心配そうに眉根に皺を寄せたまま、静かに私の表情をうかがっていた。
自分の手に視線を落とし、ゆっくりと動かしてみる。
(手も……自由に動くみたい)
〇〇「……はい。もう大丈夫、みたいです」
安心させるように笑ってみせると、プリトヴェンさんは長く大きな息を吐いた。
プリトヴェン「よかった……無事みたいで」
(プリトヴェンさんが助けてくれなかったら、どうなってたんだろう……)
床に落ちたリンゴが視界に入り、背筋が凍る。
ちらりと確認した鏡には、もう何も映っていなかった。
〇〇「ごめんなさい。私…-」
プリトヴェン「……ごめん!!」
全身全霊で頭を下げるプリトヴェンさんの耳は、リンゴのように真っ赤に染まっていた…-。