満天の星々が、視界いっぱいに煌めいている…-。
ドロワット「俺は、魔法使いの王子だからな。魔法を悪事に使う奴には、キツいお灸を据えてやらねぇと」
箒の後ろに乗せた〇〇を振り向いて、俺は口の端を吊り上げて見せる。
強気なところを見せたつもりだったのに、なぜか〇〇はふわりと頬を緩ませた。
〇〇「やっぱり、ドロワットさんは優しいと思います」
彼女の言葉に、むず痒いように、けれど温かな感情が胸に込み上げる。
(ったく……俺のこと優しいなんて言うの、お前くらいなもんだぜ)
(出会ったばっかりの頃から……お前はそうやって、ちゃんと俺の中身を見てくれるんだよな)
ドロワット「なんだよ……まあ、お前がそう言うなら否定はしねぇけどよ」
そう答えた声には、我ながら隠しようもないくらいの喜びがにじんでいた。
そんな彼女から視線を前に向けると、改めて箒を握り直す。
ドロワット「城に着いても、絶対に俺から離れるなよ。 ま、俺の魔法がありゃ、相手にもならねぇ連中だとは思うが……」
〇〇「わかってます」
俺の腰に回った〇〇の腕に、ぎゅっと力が込められる。
〇〇「でも、ドロワットさんも無理はしちゃ駄目ですよ。 ドロワットさんがすごいのはよくわかってますけど……私だって、心配なんですから」
ドロワット「……そうかよ」
〇〇から伝わってくる想いに、心はたやすく舞い上がる。
(〇〇は、俺が強い魔法を使えるからって、妙な色眼鏡で見たりしねぇ)
(そんなお前の前だからこそ……格好つけたくなっちまうんだ)
(こんなこと、恥ずかしくてお前に言えやしねぇけど)
背中に感じる〇〇の温もりが心地よくて、いつまでも触れていてほしくて……
俺は城に向かう箒の速度を、ほんの少しだけ緩めたのだった。
…
……
物語の王子や、城の兵士達をウサギに変えてしまった後……
〇〇「このお話、どうやって完結させましょうか……」
ドロワット「何悩んでるんだよ? 完結させる方法なんざ、わかりきってるだろ」
思案気な表情を浮かべていた〇〇を、俺は腕の中に閉じ込めた…-。
ドロワット「王子がいなくなっちまったなら、俺がその役をやればいい。 もともと俺達は、新しい物語を作りに来てんだ。なら、結末だって俺達が決めていいはずだ」
耳元で囁くと、見る間に〇〇の頬が赤く染まっていく。
(お前が主人公なら、相手は俺しかいない)
(そうだろ、〇〇?)
ドロワット「悪役を倒して、愛し合う二人が結ばれて……最高のハッピーエンドだろ? それともまさか……。 物語に出てくる素敵な王子様と、いい感じに結ばれたかった……とか言うんじゃねぇだろうな?」
わざと拗ねたような声を出して尋ねると……
〇〇は真っ赤な顔のまま、まっすぐに俺を見つめ返してきた。
〇〇「いいえ……結ばれるなら、ドロワットさんとがいいです。 私にとって一番素敵な王子様は、ドロワットさんですから…-」
ドロワット「……っ。 惚れた女にそこまで言わせるなんて、さすが俺だ」
(なんでだろうな。お前はいつも、俺が一番欲しい言葉をくれる)
(……心を読む魔法でも使ってんじゃねぇだろうな?)
嬉しさで胸がいっぱいになって、俺は〇〇を抱く腕にいっそうの力を込めた。
ドロワット「俺が結ばれたい女も、お前だけだ。たとえ物語の中だって、他の男になんか渡してやらねぇよ」
愛おしさを言葉に乗せて、そうはっきりと宣言した瞬間……
物語の終わりを告げるように、城のバルコニーに白い光が差し込んだのだった…-。
おわり。