それから、しばらく…-。
チルコの街を、お菓子の甘い香りが包んでいる。
モルタ「さあ、それではパーティを始めましょう」
モルタさんの声と共に、子ども達の賑やかな声が上がった。
男の子「モルタさま! この卵あげる~!」
モルタ「ありがとう。 ……わっ!」
彼の手の中で卵が割れ、中から人形が飛び出す。
それはまるで、小さなびっくり箱のようで……
モルタ「ふふっ」
(あ……)
モルタさんが小さく笑みをこぼす。
それはいつもの笑みとは違い、少し無邪気さすら覚えるものだった。
(あんなふうに笑うこともあるんだ)
胸の鼓動が速くなるのを感じながらモルタさんを見つめていると、子ども達は、私にもいたずらをし始める。
女の子1「あははっ! お姫さま、ひっかかった~♪」
女の子2「ごめんね、お姫さま。おわびにこれ、あげる!」
私にいたずらをした女の子達が、エッグタルトを手渡してくれた。
〇〇「ありがとう」
頭を撫でると彼女達は嬉しそうに目を細め、やがて友達のところへ走っていく。
いたずらいっぱいのパーティは、その後もつつがなく進み、会場には笑顔が溢れていた。
その様子を微笑ましく思いながら眺めていると……
モルタ「少し、お話しをしませんか?」
いつの間にか傍へ来たモルタさんが、まるでエスコートをするように私の背に触れた。
ひときわ大きく跳ねる鼓動や頬の熱を感じながら、彼と会場の隅へ移動する。
(どうしてこんなに……ドキドキするんだろう)
〇〇「皆、楽しそうですね」
落ち着かない鼓動を誤魔化すように言うと、モルタさんがふわりと微笑んだ。
モルタ「ええ……そうですね。 こんなに楽しいと感じるのは、初めてかもしれません」
そう、穏やかに告げたかと思えば…―。
〇〇「っ……!」
彼の顔が間近に迫り、唇に柔らかな感触が訪れる。
〇〇「モ、モルタさん……!?」
(皆がいるのに……!)
モルタ「子ども達は、パーティに夢中で誰も気づきません。 それに、私の陰に隠れて、あなたの姿は見えないかと」
顔を寄せたまま、モルタさんがいたずらっぽく囁く。
伝わる吐息が私の鼓動を跳ね上げ、頬が瞬く間に熱を帯びた。
〇〇「あの……」
何を言っていいのかわからず、身じろぎをすると……
ふっと、モルタさんが笑みをこぼした。
モルタ「逃げようとしないでください。 あなたなら、わかってくれていると思います……」
〇〇「何を……ですか?」
モルタ「パーティは確かに楽しめていますが、それはすべて……。 あなたが私に、楽しんでほしいと言ってくれたから。 あなたの言葉だったから……私は今、今日のことだけを考えられる……」
モルタさんの瞳に光が宿り、私を見つめるそれは静かに細められる。
〇〇「じゃあ、パーティに戻って…-」
モルタ「それから」
〇〇「っ……!」
再びついばむような口づけが落とされ、言葉を遮られた。
モルタ「私は、いたずらウサギと一緒です」
〇〇「え……?」
モルタ「ウサギがおばあさんにそうしたように、私はあなたに甘えたい……。 ウサギは、寂しいからおばあさんにいたずらをしていたそうですよ」
(寂しい……)
モルタさんの手が、優しく私の髪を撫でる。
モルタ「本当はこのまま抱きしめて、たっぷりと甘えたい気分なのですが……。 どうしましょう。パーティを抜け出すと、あなたに怒られてしまいそうです。 パーティを楽しむ約束だったでしょう、と」
モルタさんの声は、いつもとは違いわずかに弾んでいた。
そのことが私の胸に大きな喜びをもたらしてくれる。
〇〇「私は……モルタさんが穏やかな気持ちで楽しめるなら、なんでも…-」
そう言った瞬間、再度唇を奪われる。
突然のキスに体を震わせる私を見て、モルタさんはくすりと笑った。
(モルタさん……)
体を寄せるモルタさんの背中に腕を回し、そっと抱きしめる。
すると彼は、甘えるように顔を擦り寄せて……
その無邪気な姿からは、この街を訪れた時に覚えたいびつさは感じられなかったのだった…-。
おわり。