太陽7話 文章に込めた想い

翌日…-。

私は迎えに来てくれたカゲトラさんと一緒に、一軒の古めかしい家を訪れていた。

開け放たれた障子の向こうからは、小鳥達のかわいらしい声が聞こえてくる。

〇〇「カゲトラさん、ここは……?」

カゲトラ「小説に出てくる文豪の家の、モデルになってる場所だ。 そして……作者である松影が、実際に暮らしていた場所でもある」

〇〇「えっ?」

カゲトラ「驚いたか?」

〇〇「はい……」

思わず部屋の中を見回したその時、隣にいるカゲトラさんが笑みをこぼした。

カゲトラ「いつも、この時間は解放されてるんだが……今日は人払いをしてもらった。 ゆっくり見学するといい」

そう言ってカゲトラさんは腰を下ろし、私に手招きをする。

促されるままに、彼の隣へ腰を下ろすと…-。

カゲトラ「ここで松影は何を思ってたんだろうな」

カゲトラさんが、外に広がる青空を見上げる。

そこには昼特有の白い月が浮かんでいた。

〇〇「ここから月を見上げていたのかもしれませんね」

月と蝋燭が生み出すほのかな光や、紙の上をペン先が滑る音…-。

かつてここに広がっていたであろう光景を想像していた、その時だった。

カゲトラ「『たとえ厚い雲が月を隠そうとも構わない。 この目に映らなくとも、美しき月は雲の向こうで煌々と輝いているのだから』」

〇〇「それって……小説の結びの文ですよね?」

低い声で静かに読み上げられた言葉には、確かに覚えがある。

カゲトラ「ああ。俺はこれを読んで、この物語は悲恋じゃねえと思ったんだ。 昔読んだ時は、いまいちしっくりこなかったんだが……。 文豪の想いは、この文章にすべて込められてるんじゃないかと思った。 文豪にとっての美しき月……別れを選んだ女への想い……。 それがわかるようになったのは……」

カゲトラさんが、私の手をそっと握った。

(カゲトラさん……?)

否応なしに沸き上がる期待や高鳴る鼓動を抑えながら、私は彼を見つめ返す。

すると……

カゲトラ「俺がそれに気づけたのは、お前がいたからだ」

私の手を握るカゲトラさんの力が、少しだけ強くなる。

鋭さを感じる彼の瞳は、愛おしげに細められていた…-。

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