太陽SS 画用紙に描く想い

俺と〇〇は、かつて文豪が住んでいた部屋を訪れた。

床に腰を下ろしたまま〇〇の体を抱き寄せると……

カゲトラ「俺も負けてられねえな」

〇〇「え……?」

〇〇が俺を、不思議そうに見上げた。

(お前があの作品を悲恋じゃないと言った時、心が通じ合ったような気がした)

(月を見て、互いを想い合ってたあの二人のように……)

(……でも、それだけじゃねえ)

カゲトラ「俺とお前の心を繋いでくれた、あの作品には感謝しているが……。 お前があれを面白かったって言った時、正直嫉妬もした」

(他の奴の紡いだ物語が、お前の心を動かしたんだから……)

いい大人がみっともないと思いながらも、素直な気持ちを白状する。

カゲトラ「作家として、さらにお前の心を動かす作品を作りてえって思ったし……。 男としても、負けるわけにはいかねえって」

(お前が俺の心を満たしてくれるように、お前の心を満たすのは俺でありたい)

(わがままかもしれねえが、俺はお前のすべてを手に入れたいんだ)

〇〇「そうだったんですね」

俺の気も知らず、〇〇はおかしそうに笑った。

悔しいが、その笑顔も俺の心を甘く締めつける。

(ったく、お前は……)

カゲトラ「こら、笑うな」

俺は〇〇を抱きしめる腕に力を込めた。

カゲトラ「さっきはああ言ったが……こうしてると幸せだな」

伝わってくる彼女の温もりが、俺の心を幸せなもので満たしていく。

〇〇「さっき……?」

カゲトラ「たとえ結ばれなくてもってやつのことだ」

俺は顔を上げて、〇〇の瞳を覗き込む。

(俺の隣にいてくれなくたっていい……お前には幸せに笑って生きていてほしい)

(お前と出会って、そんな想いの形を初めて理解できた)

だが……

カゲトラ「離れてても相手が幸せであればいい。それも、もちろん嘘じゃねえが……。 こんなふうに温度を感じて、笑顔を近くで見られたら……何倍も幸せだ」

(この温もりを手放すなんて、俺にはできねえ)

(この気持ちも、お前と出会えなければ知ることができなかっただろうな)

俺を見つめる〇〇の瞳が、幸せそうに細められる。

安心したように身を預けてくれる彼女を、俺はしっかりと抱きしめた…-。

……

窓から吹き込んでくる強い風が、描きかけの画用紙をめくる…-。

カゲトラ「……」

(松影の作品を超えるもの、か……)

ヴィルヘルムに戻ってきた俺は新作の制作に取りかかっていたが、どうにもしっくりくる絵が描けない。

たくさんの読者の心を動かし、未来まで語り継がれるような作品を描きたいとう思いはもちろんある。

(だが、それだけじゃねえ)

(俺は〇〇が笑顔になれるような作品が描きたい)

ここ最近、気づけばあいつのことを考えていた。

それは今日も例外ではなく……

(……何やってんだ、俺は)

画用紙に、俺はいつの間にか〇〇によく似た顔を描いてしまっていた。

カゲトラ「重傷だな」

いい年をして子どものように恋心を募らせる自分に苦笑すると、俺はそのページを破り捨てるため、画用紙に手をかけるが……

カゲトラ「……」

画用紙の上で微笑む彼女を見ているうちに、自然と頬が緩み……俺は丁寧にそのページを切り取る。

(あいつの代わりってのは難しいが……これはこれで悪くねえな)

胸の中に溢れてくる愛しさを感じながら、そっと紙の上の笑顔を指でなぞった。

ふと見上げると、窓の外には丸い月が浮かんでいる。

(……松影も、こんなふうに相手を想ってたのかもしれねえ)

俺は箱から煙草を一本取り出し、火をつける。

そして、改めてあいつの似顔絵を手にし……

(次に会えた時、この絵を見せてやったら……どんな顔するだろうな)

想像すると、口元に笑みが浮かぶ。

(それまでに、俺の新作も完成させないとな)

俺はその絵を引き出しにそっとしまい、再び窓の外の月を見上げる。

ぼんやり月を眺めているうちに、煙草は少しずつ灰に変わっていって……

カゲトラ「よし。やるか」

短くなった煙草をもみ消すと、俺は机に転がるクレヨンを手にするのだった…-。

おわり。

<<太陽最終話||月覚醒へ>>



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