太陽SS 尽きぬ強欲

夜の気配が濃くなるにつれて、部屋の空気も冷たさを増していく…-。

(いつの間にか……寝ていたのか)

ふと目が覚め、腕に感じる温もりに視線を向ける。

隣では、〇〇が穏やかな寝息を立てていた。

(よく眠っている)

布団をかけ直し、あどけない寝顔を見つめる。

ヴァスティ「……」

(こうしていると……先ほどのことが嘘のように思えるな)

白い頬にかかる髪を指先ですくう。

窓から差し込む月明かりが、〇〇を淡く照らし出していた。

―――――

〇〇『私は……私の心はいつもヴァスティさんと共にあります。そして…-。 私も……あなたを満たしたいです』

―――――

頬を鮮やかな朱に染めた〇〇の姿が脳裏をよぎる。

初めて、〇〇の欲を目の当たりにした気がした。

ヴァスティ「……愛しい奴だ」

不意に想いが胸に溢れ、眠る〇〇の髪をそっと撫でる。

〇〇「……ん」

〇〇はわずかに眉根を寄せると、柔らかな唇を小さく開けた。

〇〇「……ヴァスティさん」

俺の名前が甘やかな息と共に吐き出され、満たされるような感覚をおぼえた。

(起きたか?)

けれど、〇〇はふっと笑みを浮かべると、また気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

ヴァスティ「寝言か」

(俺と一緒にいる夢でも見ているのか?)

(夢の中でさえ、お前は俺から離れることはできないということだな)

勝手な想像に満足して、そっと〇〇の額に口づけを落とす。

野に咲く花のような、優しい匂いが鼻先をかすめた。

(だが……まだだ。俺はまだお前の全てを手に入れられたわけではない)

新たに生まれた欲が、俺の中を渦巻いていく。

(俺はお前の『全て』を、欲している)

〇〇を起こさないように体を起こし、窓辺に立つ。

大きな窓からは、夜空に輝く無数の星が見えた。

(あの時…-)

俺はブレスレットを購入した時のことを、思い返した…-。

……

〇〇「せっかくなので、これは私からの贈り物にさせてくれませんか?」

ヴァスティ「……」

(〇〇から俺に……?)

思いがけない言葉に、らしくもなく戸惑ってしまう。

(何を言い出すのかと思えば……そんなことを考えていたとはな)

ヴァスティ「俺のものであるお前が、そんなことをする必要はない」

〇〇「それは…-」

〇〇は長いまつ毛を不安げに瞬かせると、目を伏せた。

(……なぜそんな顔をする?)

(まったくお前は……積極的になったり、不安そうにしたりと、忙しい奴だ)

愛しさが募ると同時に、知らなかった〇〇の一面に気づかされる。

ヴァスティ「そんな顔をするな、〇〇。 本来は、俺がお前に与えるのが筋なのだが……。 お前がそうしたいというのなら、俺も喜んで受け取ろう」

その言葉に瞳を輝かせる〇〇を見つめながら……

俺の中では新たな欲が芽生え始めていた…-。

……

(まさか〇〇があんなことを言うとは思わなかった)

俺の言葉を聞いて、紅をつけたように赤くなった〇〇の頬を思い出す。

(……不思議な女だ)

言葉を交わす度に、組み敷く度に……〇〇は俺の知らない一面を見せつけてくる。

ヴァスティ「やはり、お前は罪深い」

(強欲の官吏である俺のことを、決して満足させないのだから)

窓辺に机に置かれた一対のブレスレットに目を向ける。

二つのブレスレットは、手首を離れてからなんの反応も見せなかった。

ヴァスティ「……ワンダーメア、か」

(あんなことが起きるとは……面白い国だ)

月がブレスレットを照らし、仄かな青い影を机の上に落としている。

〇〇「……ヴァスティさん?」

細い声に振り返ると〇〇が体を起こし、俺を心配そうに見つめていた。

〇〇「どうしたんですか? もしかしてまたブレスレットが何か…-」

(余計な心配をさせたか)

ヴァスティ「いや、なんでもない」

俺は小さく首を横に振ると、窓辺から離れた。

ヴァスティ「もう少し寝ていろ」

〇〇の傍らに立ち、少し体をかがめて頬にキスを落とす。

さらりと頬に当たる彼女の髪が、俺の心をくすぐって…-。

(次は、俺にどんなお前を見せてくれる?)

(俺はお前を知り尽くす……お前の全てを引き出してやる)

(そして、お前もそのことを望んでいるはずだからな)

柔らかな頬の感触に……胸が激しく、そして甘く疼くのだった…-。

おわり。

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