憲兵に閉じ込められたのは、ガルティナ城の離れにある一室だった。
憲兵「おとなしくしてろ。用が済んだら解放してやる」
なんとか逃げられないかと部屋の中を歩き回ってみたものの、どこもしっかりと施錠されていて、脱出の方法は見つけられない。
〇〇「誰か……!」
声を上げても、部屋に反響するだけで外からは物音一つ聞こえてこない。
(……憲兵の人が犯人の仲間だったなんて)
(サイさんは無事なのかな)
彼のみを案じていると、コツコツと背後で物音が聞こえた。
(何……!?)
びくりと肩を揺らし、恐る恐る振り返る。
カタンと窓が開かれ、現れたのは…-。
サイ「〇〇」
〇〇「……!」
月明かりを背に受けたサイさんが、私に手を差し伸べていた。
サイ「危険な目に遭わせてしまってごめんね、もう大丈夫…-」
〇〇「サイさん……!」
彼の元へ駆け寄り、その手をしっかりと取る。
サイ「遅くなってごめん。ここへの通路が塞がれていて、時間がかかっちゃって……」
私を安心させるように、サイさんがぎゅっと手を握り返してくれる。
不安が一気に消え、知らず目頭が熱くなるけれど……
〇〇「あ……! 大変なんです、実は犯人は…-」
慌てて伝えようとするけれど、サイさんが私の言葉を遮った。
サイ「うん、あの憲兵達だね。安心して。強盗犯は全員、もう捕まえたから」
〇〇「え……」
サイさんは悔いるように唇を引き結んだ。
サイ「……僕が、もっと早くに気がついていたら。〇〇を離さなければ……。 こんな怖い思いをさせずに済んだのに……」
夜風が静かに吹く中、握られた手がとても熱い。
〇〇「サイさん……」
サイ「とにかく、〇〇が無事でよかった。でも……探偵団は解散しようと思う。 君をこんなことに巻き込んでしまったし……」
顔を伏せるサイさんに、私はそっと首を振った。
〇〇「でも、サイさんはこうして助けに来てくれました。 私は……大丈夫ですから」
サイ「……そう言ってもらえると、すごく救われるよ」
サイさんが私の手を引き、その胸にしっかりと抱き込む。
まだわずかに震える私の背を、サイさんは優しく撫で続けてくれていた…-。
…
……
その後、サイさんは従者さんと一緒に私を部屋へと送り届けてくれた。
サイ「見張りをつけさせるから。安心して休んでね」
〇〇「ありがとうございます。あの……憲兵に犯人の仲間がいるって、どうして気づいたんですか?」
サイ「本来秘密のはずの憲兵隊の巡回ルートをあの宝石店が知ってるのが、おかしいなって思ったんだ。 油断させるために、わざわざ店の人に伝えたんじゃないかな」
疲れた様子で、サイさんは一つ息を吐く。
サイ「探偵団の依頼で、僕と君があの店にやってきて……犯人達も焦ったんだろうね」
〇〇「しかも、私にぶつかって顔を見られてしまって……」
サイ「こんな大事件になるなんてね」
サイさんの手を思わず引いてしまうと、彼の視線がこちらを向く。
〇〇「でも、サイさんの活躍で解決できました。探偵団の立派な仕事です。 それに依頼の方も……あ!」
自分で言いかけて思わず顔を上げると、サイさんも同じように目を丸くしていた。
サイ「……そうだった! 君のことが心配で、すっかり…-」
しばらく顔を見合わせて、二人で苦笑いしてしまう。
〇〇「明日、一緒に報告に行きましょう」
サイ「そうだね。被害に遭った宝石店も助けてあげたいし。 それに…-」
サイさんが私の手を力を込めて握り直す。
サイ「それに僕も、君に宝石を贈りたいんだ」
〇〇「え?」
サイさんが照れたように微笑んで、私に顔を近づける。
サイ「君を奪われて、僕はどうにかなっちゃいそうだった。 改めて思い知ったんだ……君は僕の大切な人だって」
従者さんには聞こえないようにか、耳元で囁くようにそう告げられ……
(……嬉しい)
サイ「今度は調査じゃなくて、本当の恋人として。 君はどんな宝石が好きか、教えてくれる? そして僕から……その宝石を贈らせてほしい」
ドキドキと、鼓動が速まって仕方がない。
〇〇「……はい!」
サイ「あの依頼人の恋する気持ち……今なら僕にもきちんとわかるよ。 きっと、成功させよう」
屈託のない彼の笑顔は、今までよりも自信に溢れている。
(誰よりも頼もしい探偵……)
彼への気持ちを胸に、私も探偵団として頑張ろうと気を引きしめた。
依頼人の男性と宝石店の女性が二人仲良く街を歩いているのを見かけるのは、もう少し先のお話…-。
おわり。