美しいガラスケースは無残に割られ、床に破片が散乱している。
未だ騒然とした状況の店内で、サイさんと私は従者さんから話を聞いていた。
従者「……強盗事件ですね。すでに憲兵隊には連絡をしました」
その言葉を聞いて、サイさんが険しい表情を浮かべる。
サイ「それにしても……いくら宝石店とはいえ、こんな大通りに面した店に強盗に入るなんて」
〇〇「あの女性も、憲兵隊もいるから安全だって言ってたのに……」
―――――
女性店員『そうですよね。このお店は憲兵隊の巡回ルートに入ってますし、安全ですよね』
―――――
胸の前でぎゅっと手を握ると、青い顔をした店主さんが頷く。
店主「はい……驚きました。まさかこの店であんなことが起こるなんて」
閉店直前の人の少ない時間、普通の客のように入ってきた男に突如ガラスケースを叩き割られ……
飾られていた宝石が、堂々と盗まれてしまったのだという。
サイ「怪我をした方はいませんか?」
店主「ありがとうございます。店員は皆無事でした。 騒ぎで逃げ出していったお客様方に、何もなければいいのですが……」
サイ「後のことは任せて、お休みください」
サイさんは一つ息を吐くと、私の肩にそっと手を置いた。
サイ「君も今日は城に戻った方がいい。犯人は捕まっていないし、危険だからね」
〇〇「サイさん……」
真剣な瞳から、私を本当に心配してくれていることがわかる。
(そうだよね。私がここにいても何もできないけれど……)
〇〇「でも……サイさんだって危険です」
そう言うと、サイさんは私を安心させるように柔らかに微笑んだ。
サイ「大丈夫だよ。僕もすぐに戻るから。先に城で待っていて」
〇〇「わかりました。サイさんも気をつけてください」
サイ「ありがとう」
肩の上から、サイさんの温かい手がそっと離れていく…-。
その感覚に一抹の不安を覚えたけれど、責務を全うする彼に声をかけることはできなかった。
憲兵「姫様は、我らが責任をもって城まで送り届けます」
到着した憲兵達の申し出をありがたく受け、私はサイさんを残したまま店を出た…-。
…
……
憲兵達に連れられて、城へと戻る途中……
(サイさん、大丈夫かな)
彼のことを心配していると、いつの間にか細い路地に入っていたことに気がついた。
(あれ? 城への帰り道に、こんな道はなかったはず……)
そう思った時…-。
憲兵「やっと王子と離れてくれたな」
〇〇「……え?」
私を護衛してくれている憲兵の顔が、にたりと歪む。
他にいた兵士達の姿もなく、いつの間にか彼と二人きりになっていた。
憲兵「あの馬鹿、お前に顔を見られたって言ってたからな。まったく面倒なことになった」
―――――
〇〇『っ……!』
男性『……!!』
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不意に、宝石店から飛び出してきた男性と目が合ったことを思い出す。
(あの人が、強盗犯だったの……!?)
息を呑む私を見て、憲兵の男がニヤリと笑った。
憲兵「残念だったな、お姫様」
〇〇「そんな……!」
とっさに逃げ出そうとするけれど、男に軽々と腕を掴まれてしまう。
私はなすすべなく憲兵の男に捕らえられてしまったのだった…-。