沈みゆく太陽が、森の木々を茜色に染める…-。
セラス「そうや」
セラスさんは何かを思いついたのか、私の頭から手を離した。
手の温もりと心地よい重さの余韻を感じながら、私はセラスさんを見つめる。
セラス「疲れてるとこ悪いけど、城に戻る前にもう一つ行きたいところがあるんや。ええか?」
〇〇「行きたいところ? 私は大丈夫ですけど……」
セラス「ほな、ちょっと馬車の手配するから待ってて」
(馬車? どこまで行くんだろう?)
城の前まで来ると、セラスさんは門番の方に話をしに行く……
少しして戻ってくると、セラスさんはいつものように笑みを浮かべた。
セラス「準備する間、オレと話しながら待ってよ」
〇〇「はい」
門扉に灯る明かりが、夕闇の中に影を作る。
セラス「さっきは、ありがとうな」
セラスさんは私の隣で空を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
セラス「オレのこと、かばおうとしてくれてたやろ?」
〇〇「それは……」
―――――
街の男性『本当のことだろ! 今さら国のためって言われたって信用できるもんか!』
〇〇『待ってください。セラスさんはユメクイから皆さんを守るために、一人でマグナに…-』
―――――
あの時、ちゃんと説明できなかった自分を思い出して……
悔しさが胸に広がっていく。
〇〇「セラスさんはマグナに潜入して、根本からユメクイをどうにかしようとしていたじゃないですか。 私達のことも、助けようとしてくれた……」
セラス「それはお互い様やろ?」
〇〇「でも……」
(あの時のことを知っている私が、ちゃんと伝えられていたら……)
不意に、セラスさんの手が私の頬に添えられた。
指先が優しく確かめるように頬をなぞっていく。
セラス「そんな暗い顔せんでもええよ。 ちゃんと言わんかったのは、言い訳みたいで恥ずかしいからや。 誰も頼れん、オレ一人でどうにかする! ……て、いきがっとったのはほんまやし」
私の顔を覗き込んで、セラスさんが微笑んだ。
彼の瞳は、出会った頃の剣呑さはなく……今はただただ優しい輝きを放つ。
セラス「潜入してた時……。 アンタ達を見て、ちゃんと伝えるべき人に伝えるようにするってのは大事やなって反省したんや。 それがわかってたら、今日みたいなことは起こらんかったなって思ってん。 ええ、勉強ができたってことや」
彼の指先が私の唇をかすめ、体に甘い震えが走る。
セラス「皆にも言うたけど、これから巻き返すから。見とって」
〇〇「はい……」
馬車の準備ができたのか、門の中から馬の足音が聞こえてくる。
離れていく指先を見つめていると、なぜか名残惜しさが募っていった…―。