冬の朝の淡い光を受けて、白い花が凛と咲き誇る…―。
アルビトロでクリスマスを過ごした数日後、レベルタに戻った私はこの街でもクリスマスを祝うことにした。
(〇〇様と一緒に過ごす、クリスマス……)
今夜見られるであろう彼女の笑顔を、目の前の可憐な白い花に重ねる。
(なんて清らかで美しい……)
私は花を傷つけないように、慎重に茎を手折っていく。
クローディアス「お兄さま!」
声の方を振り返ると、クローディアスがこちらに向かって駆けて来た。
クローディアス「その花は?」
クローディアスは私が抱えている白い花を見て、目を瞬かせる。
レイヴン「〇〇様へのクリスマスプレゼントに、花冠を作ろうと思ってね」
クローディアス「そうだったんだ。すごくきれいだね! ぼくも、〇〇さまに何かプレゼントしたいな」
私は膝をついて、クローディアスの瞳を覗き込む。
レイヴン「クロードは街の飾りつけを頑張るんだろう? きっと、〇〇様もとても喜んでくださるよ」
クローディアス「そうだね。ぼく、がんばるよ。〇〇さまと、お兄さまのために!」
レイヴン「いい子だね」
クローディアスの頭を撫でながら、心の中で微かに安堵する。
(私は、やはり愚かな人間だ)
もし、私よりクローディアスにもらうプレゼントの方が、彼女にとって嬉しいものだったら……
そんな子ども染みた嫉妬心に、苦笑いがこぼれる。
けれど今はそんな醜い心までも、すべて心地よく受け入れられる。
(〇〇様を想う幸せ……)
長く封じ込めていた感情が溢れ、胸がいっぱいになっていく。
クローディアス「お兄さま、早く街に戻って、飾りつけの準備をしなくっちゃ!」
クローディアスもそんな私の変化を感じているのか、いつになく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
レイヴン「ああ。行こう」
(早くあなたに会いたい……〇〇様)
彼女の笑顔が自然と心に浮かんで、切なさと同時に温かな気持ちが湧き起こる。
(……誰かを恋しく想うことが、こんなにも幸せなものだったなんて)
腕に抱えた白い花束を、そっと胸に抱きしめた…-。
…
……
色とりどりに飾りつけられたレベルタの街で、私達は〇〇様を出迎えた。
そして、彼女と一緒に用意したクローディアスへのプレゼントを渡す。
クローディアス「わあ、大きなぬいぐるみ! ありがとう、お兄さま、〇〇さま! ……じゃなかった。サンタクロースさん!」
嬉しそうなクローディアスに、私達はどちらからともなく笑みを交わす。
(こんなに幸せなクリスマスを過ごせるのは、あなたのおかげですね)
(メリークリスマス、〇〇様)
言葉にできない幾多の想いを込めて……私はそっと、〇〇様の頭に白い花冠をのせる。
〇〇「レイヴンさん、これは……」
レイヴン「あなたへの、クリスマスプレゼントです。 思った通り、とてもかわいらしい」
白い花が、彼女の艶やかな髪を美しく際立たせていた。
思わず見とれていると、〇〇様は困ったようにまつ毛を伏せる。
〇〇「ごめんなさい! ……私、何も用意できてなくて」
わずかに頬を赤く染めてうつむく〇〇様が愛おしくて……
ふと、胸にいたずらな気持ちが宿った。
レイヴン「でしたら……」
彼女の額にそっと口づけを落とすと、甘く優しい香りがふわりと私達を包み込んだ。
レイヴン「素敵なプレゼントをいただいてしまいました」
〇〇「……レイヴンさん?」
驚いたように目を瞬かせる彼女を、まっすぐに見つめる。
レイヴン「あなたの恥じらう姿も、笑顔も……私にとって何より幸せで、愛おしいものです」
(これからもずっと、あなたの傍で生きていきたい)
(あなたが私に幸せをくれたように、今度は私があなたを幸せにしたいのです……)
〇〇「あ……ありがとうございます」
はにかむように弧を描いた彼女の唇が、そっと私の頬に触れる。
唇が触れるその柔らかな感覚は、この上なく優しいもので…-。
レイヴン「〇〇様……?」
思いがけない幸せな出来事に目を瞬かせてしまうと、彼女は花が咲いたような笑顔で私を見上げた。
〇〇「私はレイヴンさんに、もっとたくさんの幸せをあげたいです。だから……来年も」
(私と……同じ願いを?)
〇〇様の指に自分の指を絡めて手を繋ぐ。
(もう二度と、この手を離さない……)
レイヴン「ええ。来年も一緒にクリスマスを過ごしましょう」
〇〇「はい……!」
愛する人の温もりを噛みしめながら、二人の未来に思いを馳せるのだった…-。
おわり。