案内された席に着いて店内を見ると、そこには幸せそうに食事をしている数組の恋人達の姿があった。
(本当に素敵な場所だな……)
窓からは静かに煌めく夜景が見え、店内には美しいピアノの旋律が響いている。
〇〇「こんなに素敵な場所へ連れてきてくれて、ありがとうございます」
ラス「気に入ってもらえて嬉しいよ。 ここ、運良く空いててさ」
話を聞く限り、ラスさんは昨日のうちにこの店を予約してくれていたらしい。
降り積もる雪の中、店を探すのは相当大変だったはずだけれど……
ラス「もしかしたら、オレ達へのクリスマスプレゼントかもしれないね」
ラスさんはその苦労を全く口に出さず、ただ笑顔を向けてくれていた。
(嬉しいな)
大切な人が自分を喜ばせようとしてくれることが、何よりも嬉しくて幸せだと思う。
けれど、その一方で……
ラス「……」
(やっぱり今日のラスさん……いつもと少し違う気がする)
(もちろん、それが嫌なわけじゃないけど……)
いつものように積極的な接触をしない彼のことについて、揺らめく蝋燭の火を見ながら考える。
けれどいくら考えても理由がわからず、思い切って本人に直接聞いてみようかと考えた、その時……
ウェイター「お待たせいたしました。前菜のテリーヌでございます」
テーブルの上に、目にも鮮やかな料理が運ばれる。
来る途中に聞いた話によると、今日はクリスマスのための特別なコースをいただけるとのことで、お皿の上は赤や緑などの野菜で彩られていた。
ラス「おいしそうだね。それじゃ、乾杯していただこうか」
〇〇「はい」
私はひとまず頭を切り替え、この時間を思い切り楽しむことにする。
運ばれてくる料理は、本当にどれもおいしくて……
〇〇「おいしいですね」
ラス「うん」
二人で夜景や会話を楽しみながら、舌鼓を打つ。
そこには幸せで温かな時間が流れていた。
〇〇「……こういうの、いいですね」
ラス「え?」
私が自然と口にしていた言葉に、彼は首を傾げる。
〇〇「ラスさんと今日一日、こうやっていろんなことを楽しんで……すごく幸せです」
今感じている精一杯の気持ちを、素直に伝えると……
ラス「うん、オレも同じ気持ちだよ。 ……デートでも、こんな気持ちになれるものなんだね」
〇〇「え……?」
ラス「ううん、なんでもないよ」
ラスさんが本当になんでもないことのように言ってグラスを傾ける。
(デートでも、って……)
その言葉の意味を考えていた時、カメラを手にしたウェイターさんが席にやって来た。
ウェイター「よろしければ、クリスマスの記念に写真をお撮りいたしましょうか?」
ラス「写真?」
ウェイターさんいわく今日一日限りのサービスとのことで、見れば、周りの恋人達もはにかんだような笑顔を見せながら撮ってもらっている。
ラス「いいね。それじゃあ、お願いしようかな」
〇〇「は、はい」
ウェイター「では、そちらに並んで座っていただけますか?」
ラス「うん」
ラスさんは立ち上がると、私の隣に用意された椅子に座った。
ラス「じゃあ、こんな感じで」
〇〇「……!」
肩をそっと抱き寄せられた途端、鼓動が大きく高鳴った。
人前でこんなにも密着することに、恥ずかしさを感じるものの……
〇〇「……」
仲睦まじい恋人達や、淡く揺らめく蝋燭の炎など、クリスマスの雰囲気も手伝って、私は抵抗することなく彼に寄り添う。
すると……
ラス「……」
優しげな笑みを浮かべて私の肩を抱くラスさんの手に、ぎゅっと力が込められたのだった…-。