手あたり次第に本を探すものの、零さんの世界に繋がる手がかりを見つけることはできなかった。
(零さんに謝らないと)
私は階段を下り、零さんの姿を探す。
(零さん……いた!)
視界の端に零さんの姿がよぎり、そちらに足を向ける。
零さんは本棚から本を取り出そうとしているところらしく、私に気づいた様子はない。
(邪魔するのは悪いし、零さんが気づくまで待ってようかな)
声をかけずにそのまま見守ろうとすると、ふとあることに気づいた。
(あれ? 零さん?)
さっきまでと雰囲気が随分違うと思うのも当然……
零さんは、いつの間に眼鏡をかけていた。
朔間零「おや? 〇〇の嬢ちゃん。いつからそこにいたかや?」
零さんは伸ばしていた手を元に戻し、こちらを振り返る。
〇〇「あ……いえ」
(……零さんと別れた時は眼鏡をしてなかったよね)
じっと零さんの顔を見つめていると、彼は私の疑問を察して答えてくれた。
朔間零「この眼鏡は机に置き忘れておったのを我輩が拝借したんじゃよ。しかし、度がきつくてのう」
〇〇「そ、そうだったんですか」
小さな窓から差し込む微かな夕陽の光は、零さんにわずかに届かない。
けれどそのコントラストが、なんだか零さんを美しく、妖しく魅せているように思えて……
朔間零「我輩には合わんかったわい」
目を辛そうに細めた後、零さんはそっとかけていた眼鏡を外した。
(なんで、こんなにドキドキして……)
〇〇「……よければ、私が預かりましょうか?」
胸のざわめきを押さえ込みながら、私は零さんにそう声をかけた。
朔間零「うむ。我輩が持っているより嬢ちゃんの方がこの学校の生徒じゃし、心当たりがあるじゃろ。 あとは任せたぞい、嬢ちゃん」
〇〇「はい」
小さく頷いた後、私は零さんから眼鏡を受け取った。
朔間零「しかし、我輩の世界に関する本を見つけることはできんかったのう。嬢ちゃんの方はどうじゃ?」
〇〇「すみません。私も見つけられなくて……」
(あとできることとしたら……そうだ!)
〇〇「教員の方に聞けば何か知っているかもしれません。だから、諦めないでください!」
朔間零「おぬし……」
〇〇「あ……あの」
促されているわけでもないのに、私の口が自然と言葉を紡いでいく。
〇〇「実は私も違う世界からこの世界に来たんです。 最初は驚いたり、戸惑ったりすることばかりだったんですけど。 いろいろな方達に支えられて……だから今もこうしていられてるんです。 でも、零さんは元の世界に戻らないといけない事情があると思いますし。 零さんのことを心配している人達もいると思います。なので、その…-」
(私……なんでこんなにしゃべってるんだろう)
言い募る自分が恥ずかしくなり、顔をうつむかせてしまうと……
朔間零「ありがとう、〇〇の嬢ちゃん」
〇〇「あ……」
不意に頭に手を置かれ、思わず顔が赤くなってしまう。
(手、冷たい……けど温かい)
零さんはそれ以上何も言わず、優しく笑うばかりだった。
おわり。