太陽SS コーヒーと星空

キャンドルの小さな灯りが、二つのワイングラスを映し出す。

その揺らめき越しに、僕は彼女の瞳を覗き込んでいた。

ソルベージュ「すっかり頬が赤くなってきたね、マドモアゼル」

〇〇「えっ? そうでしょうか」

慌てて両手で頬を包み込む〇〇を、正面から見つめる。

彼女の頬に触れるには、レストランのテーブルは広すぎた。

ソルベージュ「ふふ……すべての仕草が愛らしくてたまらないよ」

〇〇「そんな……」

照れくさそうに僕を見つめる瞳はすっかり熱を帯びていて…-。

(レディにこれ以上飲ませるわけにはいかないな)

ソルベージュ「このまま、ほろ酔いの君を見つめていたいけど……。 そろそろ、食後のコーヒーをお願いするとしようか」

にこりと微笑みかけると、彼女は小さく頷いた。

給仕にコーヒーをオーダーし、窓から見える空に顔を向ける。

ソルベージュ「なかなか雨が弱まらないね」

〇〇「はい。今夜はずっと雨かもしれませんね……」

まつ毛を伏せた彼女の瞳が、あまりにも悲しそうで…-。

ソルベージュ「心配はいらないよ!」

〇〇「え?」

口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。

ソルベージュ「きっと、もうすぐ星が顔を出すはずだから」

〇〇「……どうして?」

ソルベージュ「空の星達が、僕に会いたがっているようだよ。 それになんと言っても、僕は神に愛される男だからね!」

笑顔で紡いだ言葉に、彼女も少しずつ笑みを取り戻していく。

〇〇「じゃあ、もうすぐデッキに出られますね」

ソルベージュ「ああ、コーヒーでも飲みながら、気長に待っていよう」

片目をつむって見せると、彼女の目がまた弧を描く。

〇〇「楽しみです」

(その笑顔を見ることができて、本当によかった……)

(できることなら、今すぐにでも君に触れたい。だけど……)

テーブルを挟んだ、この距離がもどかしい。

そんな思いを抱えながら、彼女に手を伸ばすと…-。

(あ……)

僕達の間には、食後のコーヒーが置かれたのだった…-。

……

熱いコーヒーが、僕好みにようやく冷めてきた頃…-。

ソルベージュ「おや……雨雲がどこかへ流れていったようだ」

いつの間にか雨が上がり、窓の外には遠くの夜景が煌めいている。

〇〇「本当ですね……」

空を見上げてつぶやく彼女に、僕は得意げに笑って見せる。

ソルベージュ「これで証明された」

〇〇「何がですか?」

ソルベージュ「やっぱり僕は神に愛されているってことさ! さあ、デッキに出よう!」

勢いよく立ち上がり、彼女の手を取る。

〇〇「えっ、ちょっと待って…―」

戸惑いの表情を浮かべた彼女だったけれど、すぐに目元がほころぶ。

僕はレストランの中を、手を繋いだまま駆け抜けていった…-。

……

雨上がりのデッキに、先客は一人もいなかった。

しっとりとした潮風が、神を撫でていく。

〇〇「気持ちいい……」

ソルベージュ「まるで生まれたての潮風のようだね」

思い切り深呼吸をすると、彼女は屈託のない笑顔を見せた。

頬を赤く染め、嬉しそうに笑う彼女につい見とれてしまい…-。

〇〇「……何か、ついていますか?」

〇〇は恥ずかしそうに顎を引く。

(君のような人とバカンスを楽しめるなんて……)

(僕は相当、神様に愛されているみたいだ)

ソルベージュ「いや……」

もっとこの夜にふさわしい言葉があるような気がして、僕は星空を見上げた。

ソルベージュ「ごらん。あの輝く星達を……!」

大げさに、両腕を広げてみせる。

彼女は少し驚いたようだったけれど、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

〇〇「やっぱり、ソルベージュさんは神様に愛されているんですね」

その言葉に、つい彼女を見つめてしまう。

ソルベージュ「僕も心底そう思っていたところだよ、マドモアゼル」

僕達は声を上げて笑い、同時に星空を見上げた。

けれど僕の視線をすぐに、彼女の横顔に吸い寄せられてしまっていて…-。

ソルベージュ「〇〇……」

そのまま、彼女を後ろから抱きしめていた。

髪のかかった柔らかい頬に、そっと指を這わせる。

〇〇「……っ!」

ソルベージュ「ずっと、こうして抱きしめたかった……」

(今まで紳士的に振る舞ってきたつもりだったのに……)

(君があんまりにも愛おしいから……)

彼女の甘い香りが僕の鼻先をかすめ、鼓動が速くなっていく。

誰にも邪魔されない海の上……

僕だけのプリンセスを強く強く抱きしめ、これ以上ない幸福に僕は酔いしれるのだった…-。

おわり。

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