ファッションショー当日…-。
会場には色鮮やかな照明が輝き、軽快な音楽が爆音で響いている。
中央に設置されたランウェイを、モデルさん達が颯爽と歩いていた。
(皆、格好いいな。でも、スペルヴィアさんがきっと一番……)
私は、スペルヴィアさんの出番を待ちわびていた。
近くに座る女性達も、スペルヴィアさんの出番を楽しみにしているようで…-。
女性客1「スペルヴィア様、もうすぐよ」
女性客2「目が合ったらどうしよう……!」
嬉しそうな彼女達の会話に、私の胸も早鐘を打ち始めていた。
女性客1「……次よ!」
モデルさんが袖にはけてすぐに、照明が落ちる。
音楽が静まり、濃密な興奮だけが会場全体を満たして…-。
まばゆい照明に、スペルヴィアさんが照らし出される。
女性客達「きゃああああああ!!!」
その瞬間、会場が割れんばかりの黄色い歓声が響き渡った。
(すごい歓声……)
その人気に驚いたのも束の間……
すぐに私は、堂々と歩く彼の姿に目を奪われていた。
(スペルヴィアさん、やっぱり何を着ても格好いい……)
デートをするなら何を着てほしいかと問われて、私が選んだ服…-。
旅行をテーマにしたと話した時に、スペルヴィアさんが驚いたように目を見開いたことを思い出す。
(よかった。すごく似合ってる……あれ?)
一つだけ、私が選んでいないものを彼が身に着けていることに気づいた。
―――――
〇〇『あ、これかわいい……』
スペルヴィア『それはレディースよ?』
―――――
それはあの時のボストンバッグだった。
(どういうことだろう……?)
ランウェイを歩くスペルヴィアさんが、客席前で立ち止まる。
客席をじっくり見回すその姿に、悲鳴にも近い女性達の歓声が上がる。
その視線が私に留まり……
〇〇「……っ」
熱く絡み合う眼差しに、私は呼吸をするのも忘れていた…-。
…
……
ショーが終わって、しばらく…-。
(スペルヴィアさん、どこだろう?)
彼の呼ばれて会場に戻ったものの、先ほど熱狂で満ちていたその空間はすっかり静まり返っていた。
(……あ!)
辺りを見回すと、ランウェイに座っているスペルヴィアさんの姿があった。
〇〇「スペルヴィアさん」
呼びかけると、彼がこちらを向いて手招きをする。
〇〇「お疲れ様でした」
私は彼に駆け寄り、心からの労いの言葉をかけた。
スペルヴィアさんはどこかけだるそうな顔で、小さく笑う。
スペルヴィア「イイ表情。そんなに良かった?ワタシのステージ」
〇〇「はい。すごく素敵でした……! 本当にお疲れ様でした」
スペルヴィア「それだけ?」
〇〇「……え? えっと、本当に格好よくて、ドキドキしちゃいました。それに、やっぱり何を着ても…―」
スペルヴィア「そうじゃなくて……」
伝えきれない興奮を身振り手振りで伝えようとした私に、スペルヴィアさんが苦笑する。
スペルヴィア「ワタシはあのコーディネートを、いつすればいいわけ?」
(さっき……じゃなくて?)
首を傾げていると、スペルヴィアさんが不意にランウェイから飛び降りた。
スペルヴィア「察しが悪いな」
低くなった声に、胸がとくんと弾む。
私を見据える黄緑と青のオッドアイが近づいて…―。
スペルヴィアさんが、私の顎を持ち上げた。
〇〇「……っ!」
ツヤのある唇が、静かに言葉を紡ぐ。
スペルヴィア「オレはもう、オマエと旅行する気でいるんだけど」
間近で囁かれた声に、かあっと体が熱くなる。
スペルヴィア「オマエの気に入ってたバッグ……あれはオマエへのプレゼント」
(あ……)
彼はただ一つ、私が選んでいない物を身に着けていた理由がようやくわかった。
スペルヴィア「二人で旅行するんだろう?」
細められた瞳に、私の胸は甘く震えて……
スペルヴィア「いつにする?」
〇〇「あの……」
スペルヴィア「それとも……このままどこか、行っちゃおっか」
〇〇「え……」
燃えるように熱い頬を、スペルヴィアさんがそっと撫でる。
柔らかそうな唇が小さく笑い……
〇〇「……っ」
私の唇と重なった。
頬を包み込む手は温かく、とても大きくて……
今さらながら、彼が男の人だということを思い知る。
スペルヴィア「どこに行っても楽しそうだ……オマエとなら」
力強く腰を抱き寄せられ、彼の胸に顔をうずめた。
とくとくと、速い鼓動が重なり合う。
(私も……)
胸がいっぱいで答えられないままでいると、もう一度スペルヴィアさんの指が私の顎に触れ……
私の吐息は、彼の熱い唇に奪われていた…-。
おわり。