太陽7話 秘めた恋

それから、しばらくの後…ー。

作業台の上に並べられた材料を一通り点検して、パティルが頷いた。

パティル「よし、始めるよ」

○○「……うん」

私も少しだけ緊張しながら頷く。

(建国祭まで、あと3日……)

材料を集め、入念な下準備をして……今日はようやくインクの試作品を完成させる日だ。

パティル「……」

パティルは慎重な手つきで、けれど手際良く作業を進めていく。

私もレシピを確認しながらそれを手伝った。

……

パティル「……できた」

○○「!」

パティルの言葉に、はっとして顔を上げる。

けれど…ー。

パティル「……」

○○「……パティル?」

パティルは作業台の前に立ち尽くしたまま動こうとしなかった。

(……まさか)

後ろからパティルの手元を覗き込んだ私は、そのまま言葉を失った。

ーーーーー

パティル「『あなたへの想いを、私は言葉で表すことができない』『ですから、この色にすべてを託しましょう。これこそが私の心』」

ーーーーー

(でも、この色……)

そこにあったのは、淡いセピア色をした液体だった。

パティル「……」

パティルは無言でインクにペン先を浸し、紙に線を引いた。

パティル「……発色も見た目通りだね。ごく普通のインクと変わらない」

○○「……」

(これが、本当にシモンさんのインク……?)

パティル「……なるほどね。そういうことか」

○○「えっ?」

セピア色のインクを見つめながら、パティルは目を細めた。

パティル「ねぇ。あともうちょっとだけ手伝って」

……

○○「……これでいいの?」

パティル「うん」

私がカーテンを閉めて回る間に、パティルも自分の作業を終えたらしい。

その手元には一本の蝋燭と、小さな紙片の入った小皿があった。

○○「これは?」

パティル「説明するより、見た方が早い」

パティルが蝋燭をかたむけ、紙片に火をつける。

○○「……!」

次の瞬間、そこに立ち現れた『色彩』に……私は思わず息を呑んだ。

あの言葉が、再び脳裏に蘇る。

ーーーーー

パティル「『あなたに焦がれ燃え上がるこの焔が、あなたの目にも映りますように』」

ーーーーー

それは、小さなオーロラだった。

あるいは燃える虹……あるいは光でできた万華鏡のような、美しい焔が揺らめく。

パティル「……その紙には、シモンのインクが染み込ませてある」

そこでようやく、以前パティルが見せてくれた実験を思い出した。

(……炎色反応?)

○○「でも、どうして……」

パティル「言ったでしょ。二人は身分が違いすぎたって。 ……恋文なんて、危なくて手元に置いておけない。 見つかったら、両方死罪でもおかしくないような時代だったんだ」

(だけどそれでも、シモンさんは手紙を送り続けた……)

パティル「手紙だって、内容は恋文ですらなかったんじゃない? ……ただ、燃やしてくれればよかったんだ」

想いを言葉にしてしまえば、誰かに見咎められた時の危険が増す。

(そう……だったんだ)

言葉なき想いが、私の胸まで熱く焦がす…ー。

パティル「『あなたへの想いを、私は言葉で表すことができない。ですから、この色にすべてを託しましょう』……その通りのことをやったんだよ、シモンは」

○○「……」

揺らめく焔が少しずつ小さくなり、やがて燃え尽きる。

私はこぼれそうになる涙をこらえながら、ただその揺らめきを見つめ続けた…ー。

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