翌日…―。
〇〇「え……?」
オリオンさんの病室を訪れた私は、思わず目を見開いた。
オリオン「帰れと言ってる。もう地上へ戻る力は持ってるだろ」
波を反射して美しく輝く部屋の風景が、急に色彩を失っていく。
〇〇「……オリオンさん」
オリオン「お前は俺のせいで死にかけた。 お前は気を失っていて覚えていないはずだが……本当に危なかったんだ。 俺が追いついた時には、お前の心臓はもう止まっていて……すぐに力を与えないといけない状況だった。 気がついた時には、俺は自分の喉を掻き切って、お前に血を与えていた」
〇〇「……っ」
オリオン「気づいたんだ。 お前がいなくなったら……生きている意味がない。 もしもまた、万一お前が俺から逃げようとして、危ない目に遭ったりしたら……。 俺は一生自分のことを許せない。 だから……帰れ」
〇〇「オリオンさん……」
首に下げた貝殻のネックレスが、シャラリと音を立てる。
――――――――――
オリオン「心から好きだと思える相手に出逢えるのは、奇跡だろう。 俺は、後悔などしたくない。 どんな事をしても……手に入れる」
――――――――――
(オリオンさん……)
オリオンさんの瞳が、苦しそうに細められている。
どうしようもなく胸が締め付けられて……
気づくと私は、そっとオリオンさんを抱きしめていた…―。
オリオン「〇〇……?」
〇〇「す、すみません……私……っ」
慌てて走り去ろうとすると…―。
私の手を後ろからオリオンさんが強く掴んだ。
オリオン「それは……少しは希望を持ってもいいということか?」
(そんなこと、わからない)
(でも、まだ帰れない)
(だって私は、まだきちんとお礼も言えてない)
(お詫びもできてない)
(ちゃんと言いたいのに、胸が痛くて……)
返事をすることができずにいると、オリオンさんは私の手を引き抱き寄せる。
オリオン「触れても……いいのか……? それなら俺は、遠慮などしない……」
胸が高鳴って、私は返事をすることができない。
すると、不意に腰元を抱き寄せられ……
ゆっくりとオリオンさんの親指が私の唇をなぞる。
〇〇「……っ」
その指の触れたところに生まれる甘い痺れに思わず目を閉じると、
オリオンさんの顔がゆっくりと近づいてきた。
オリオン「〇〇……」
この上なく愛おしげに名前を呼ばれ、私はそっと瞳を閉じる。
〇〇「……っ」
唇の隙間からオリオンさんの舌が差し込まれる。
今までとは違う、深いキス……
その甘く優しい口付けは、私の胸を暖かな光で満たしていった。
〇〇「助けてくれて……ありがとうございました」
かすれる声を、なんとか絞り出す。
〇〇「それから……ごめんなさ…―」
言い終える前に、私の唇は、再びオリオンさんに塞がれてしまう。
〇〇「ん……っ」
オリオンさんの指がそっと私の髪を撫で、力強い腕が私の腰を抱く。
オリオン「〇〇……お前の他には、もう何もいらない。 傍に……いてくれ……」
息継ぎも許されない、長いキスが繰り返されてゆく。
言葉にできない幸福感で、体が満たされていき…―。
(ああ、私)
(オリオンさんのことが……好きなんだ)
不意に私の体が抱き上げられ、ベッドにふわりと降ろされる。
オリオン「……俺の傍にいろ」
〇〇「オリオンさん……」
オリオンさんが、私の胸元のリボンに手をかける。
〇〇「……っ」
恥じらいにその手を押しとどめようとするけれど、
〇〇「んっ……」
手のひらを掴まれて、深く口づけられる。
オリオン「〇〇……」
その熱い吐息に、私は彼に身を委ねることしかできなくなっていく。
(恥ずかしい……けど)
(抵抗できない)
やがて、私を覆うものがはぎとられた時…―。
オリオン「……」
シャラリと鳴った小さな音に、オリオンさんが優しい笑みをこぼした。
〇〇「あ……」
あの、オレンジ色の夕陽を溶かしたような貝殻のネックレス。
彼が愛おしそうに、私の胸元にキスを落とす。
〇〇「っ……」
オリオンさんのキスが、やがて全身に落とされていく中……
やっと二人の気持ちが通じ合えたことを祝福するように、貝殻が、シャラリシャラリと優しい音を奏でていたのだった…―。